「三人に相談があるんだけど……いいかな?」フランシス・ギルベルト・アントーニョが、同時に想いを寄せている女子生徒・から話を持ちかけられたのは放課後のこと。
一日の授業も終わり、いつものように四人でファーストフード店で何気ない会話に花を咲かせている時だった。が急に真剣な面持ちになり、もじもじと居心地が悪そうに目を足元に向けながら上記の言葉を口にしたのだ。「おう、なんでも相談しろ!」「俺たちにできることがあるなら、惜しまず協力するよ」「せやせや、言うてみ!」三人とも頼りになるところをアピールしようと、の"相談"に一斉に食いつく。「あ、ありがとう……!じつは、あ、あのね」そんなフランシスとギルベルトとアントーニョに釣られるようにの表情も明るくなり、したかった相談というのもすらすらと声に出た。
「もうすぐバレンタインデーでしょ?それでね、私……ア、アーサーに本命あげたいなって思ってるんだけどさ……。アーサーの好みとか知らない?とくにフランシス!あと、男の子ってどういうシチュエーションで渡されたら嬉しいのかも、よかったら教えてくれない?」
彼女は眩しいほどの笑顔で。
頬をわずかに染め、恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに"アーサー"の名前を口にした。きっと今、の頭の中には優しく微笑むアーサーがいるのだろう。三人から視線を外したは、一段と赤くなった顔を両手で包み込み、赤面しているのを隠そうとしている風にも見える。―――――今まで三人が見たこともない、「女の子」の姿がそこにあった。
「……は?アーサー?」
間を置き、ギルベルトが最初に唇を開いた。
「うんっ、なにか情報ない?」
「ちょ、待って!」
「?」
「…は…えーと……いつから好きなん?」
「え?」
「せやから、アイツんこと」
相談に乗り気だった先ほどまでの元気は吹っ飛び、幾分かトーンの下がった声で、今度はアントーニョが真面目な顔をしてに問う。
「今回のことばかりは俺も何も知らないよ?」
ギルベルトとアントーニョより落ち着いてはいるものの、フランシスも心中穏やかではないようだ。
「……少し前、から。最初はすごくぶっきらぼうで、負けず嫌いで、口悪くて、乱暴で、正直印象悪かったの。でも、それが根っこの性格じゃないって知った時、好きになったのかもしれない。普段は生意気なことばっかり言ってるけど、たまに優しい言葉かけてくれたり、この前も先生から頼まれた荷物運ぶときだってね、一緒になって手伝ってくれて……。フランシスとギルベルトとアントーニョと都合合わなくて一人で帰るときなんかも、心配してくれてさ。あ、知ってる?アルのこと「うるさいやつ」とか「うっとうしい」とか言いながら、心の底ではちゃんと大事な弟だって思ってるんだよ?あれでも。……みえみえの嘘ついて意地張ってる姿も、最近はちょっとかわいいかもって思えてきて。それでね、あと……」
フランシス・ギルベルト・アントーニョ。
誰としてを止めようとはしなかった。人前だとか店内だとか、そんなものは一切気にせず、"アーサーとの出来事"を語り続けるの話を聞いていると、まるでラブラブカップルのやり取りを目の前で見ている気分だ。……いや、それよりもずっと心にくるものがある。好きな子が。自分ではなく、「誰が恋人になっても恨みっこなしな!」と堂々のライバル宣言をした、恋敵という名の親友たちでもなく。全く別の男を選んだ。
の話など、当然三人の耳には入っていない。
「ハート型」
「……ん?、え?」
「俺はやっぱり本命はハート型のやつがいいと思うんだよ。トーニョとギルはどう?」
「ああ。俺もそう思う。つーかそれしか思い浮かばねえ!」
「やんなあ。ここは王道で攻めるに限るやろ、俺もハート型のがええに一票!」
「で、味だけどあいつにやるならちょっと苦いほうがいいかもね。あいつんちのは料理が料理じゃないからな。失敗したとしても、大きな間違いさえしなければ大丈夫っしょ」
「あーあの味音痴にの手作りチョコ食わすってなんかもったいない気ぃしてならんわあ」
「だよなー」
「え、あ、」
「シチュエーションは呼び出して渡すに限るね」
「机ならともかく、下駄箱に入ってるのって食う気失せね?」
「人それぞれちゃう?でもまあ、どうせ渡されるんやったら正面からぶつかってきてほしいわ。俺なら」
「………そ、そう、なんだ?」
「うん」
「ああ」
「せや」
「……えーと」
が話している途中というにも関わらず、フランシスを皮切りにの疑問に答えていく三人。当のはいきなり喋り出したフランシスたちについていくのが精一杯で、少々訝しげな表情をしながら、それでも返事をかえした。
だけど、気づかない。
アドバイスは明らかにに向けられているのに対し、三人の目は一度もを見ていなかった。
「……」
「……」
「……」
「……」
その違和感の正体に、が気づくことはない。
アーサーのことしか見えないには、気づけない。
今まで自分の一番近くにいた三人が、まさか自分に想いを寄せているなんて、想像もしていないはずだから。
「んじゃ、俺帰るわ。遅くなりすぎたらまたヴェストに怒られるからな」
「俺も。はよ帰ってロヴィに夕飯つくったげなあかんし」
「いいよな。トーニョとギルはうちで待っててくれる人がいて。俺なんか一人だぜ?出迎えもなーんもなし」
「たまに来てくれるやつおったんちゃうん?誰やったっけ」
「マシューな。毎日は来てないよ、そりゃ」
重い沈黙を破り、腕時計を確認しながらギルベルトが立ち上がると、続いてアントーニョもフランシスも席を立った。
「あっ、じゃあ私ももう帰ろうかな?三人とも、アドバイスありがとね」
「おーう」
「いいってことよ」
「うまいこといくとええな」
***
分かれ道でと別れ、三人だけになった帰路で。
「なあ」
「ん?」
「なんや」
「もしあいつ……アーサーがよ、のことフったらどうする?」
「……」
「……」
「なんか言えよ!」
「……そんなん、決まっとうやろ」
「いちいち言わせる必要ないんじゃない?どうせお前も俺達と同じこと考えてるんだからさ」
「んなら確認だ。アーサーがをフったら?」
「殴る、かな」
「殺す」
「ぶっ飛ばす……おいトーニョ、それやりすぎじゃね」
「なに言ってんねん!俺がもともとあの眉毛んこと気に入ってへんの知っとうやろ!」
「はいはい落ち着いて。……じゃあ、もしアーサーとがうまくいった場合は?」
少しの間を置き、
「……素直に応援だな」
「応援する、しかないやろ」
「……だよね」
君が何も知らなくても
だからといって、簡単に気持ちがなくなるわけでもないけれど