なぜ、気づかなかったんだろうか。毎日顔を合わせて、一緒に駄弁って、それこそ幼なじみのような感覚で傍にいたのに。ずっと目で追いかけてきたのに。どうして三人のうち一人として、がアーサーに好意を寄せていることを知らなかったんだ。それだけで、もう情けなさが込み上げてくる。俺が誰よりものことを知っている、と胸を張り合ったあの時の自分たちを殴ってやりたいほどに。
***
から例の相談を受けてから数日が経ち、ついにこの日を迎えてしまった。
バレンタインデー。校内も浮ついた雰囲気に包まれていて、フランシスとギルベルトとアントーニョにとっては居心地が悪いことこの上ない。――今年はいくつもらえるか賭けようぜ!――あいつ好きな子からもらったらしい――え?マジで!?――ギリでもいいから誰かくれー―― 耳に入ってくる浮かれた会話を聞いているだけでもイライラしてくる。
あの日以来、とはあまり顔を合わせていない。はで準備とチョコの制作に追われており、放課後も自宅に直行だったし、フランシスとギルベルトとアントーニョも、この間の一件で躊躇いを覚えに声をかけられずじまいだった。軽く挨拶を交わしたりメールのやりとりを何回かしただけで、結局普段のように喋る機会は一度もなかった。
「今頃どうしとんやろうな、」
「アーサーのとこだろ」
分かりきったこと言うんじゃねえ。
ギルベルトが不機嫌さを隠しもせずにぶっきらぼうに言い放つ。
「……どう、なったのかな」
「ならどっちにしろ、メールかなんかくれるやろ」
そのときだ。
三人の携帯がほぼ同時に着信を知らせる音を鳴らした。当の持ち主たちは不意のそれに驚いて一瞬動きが止まったものの、すぐに我に返り、携帯の画面を開いた。まではよかったのだが―――――そこで動きが完全に停止した。差出人はきっとだろう。送られてきたメールを開く勇気がない。緊張が走る中、フランシスが携帯画面に目を向けたまま、ギルベルトとアントーニョに返答を求める呟きを零した。
「……最終確認だ。もし、アーサーの奴がをフったら?」
「一発殴る」
「せやから殺す言うたやろ」
答えは変わっていなかった。もし、アーサーがの告白を断ったときには、恨みも嫉妬も全てを込めて拳をぶつける。些かどころか十分一方的でしかない理屈だが、を泣かせた男を放っておくことはできない。
「なら、二人が上手くいったときは?」
「……応援」
「右に同じや」
けれども、がアーサーを好きで、アーサーもが好きだった場合―――二人が両想いの場合は、潔く身を引くつもりでいる。もアーサーを見つめてきた時間はけして短くないだろう。その恋がやっと実ったならば、二人の幸せを邪魔するなんて行為は一切しないと心に誓った。
「じゃあ……いいな?」
指が震える。心臓もバクバクとうるさく跳ねている。親指に力を入れ、案の定から送られてきていたメールの内容を確認する。タイトルはなし。本文に一行だけ、結果報告の一文が打たれていた。
『付き合うことになった』
思ったよりも深く落ち込まなかったのは、すでに腹を決めていたからか。
とはいっても、失恋の傷が小さくなるわけでも、ましてや無くなるわけでもない。けれど、男に二言なんてものはないんだ。好きな女性が他の男とくっ付いて。それでも略奪も二人を引き裂くこともせず、彼女が幸せであり続けることを願って陰から見守っていく。
ずいぶんと潔い?なんとでも言え。俺達に彼女の幸せを奪うことはできない。
君は何も知らなくていい