「僕んちの国歌、きく?」


仲の良いアイスランドの家に遊びにきていたときだ。他愛も無いやりとりを続けてるうちに、話の内容はいつのまにか「国歌」へと流れていた。国歌。文字通り国家の歌を意味し、国を代表して歌われるうたである。そのメロディや歌詞は国によって様々で、軍歌のように勇ましいものから静かで落ち着いた旋律を奏でるものまで……まさにそこには千差万別の世界が広がっている。国歌なんて自国の日本とイギリスとアメリカくらいしか分からないだが、アイスランドが聞かせてくれるというのなら、それはぜひ、


「いいの?きかせて!」


期待の眼差しでアイスランドを見る。思いのほか乗ってきてくれたことに面を食らったアイスランドも、心の中では自分の家の国歌に興味を示してくれたことに嬉しさを感じていた。


「……ちょっと待ってて」


腰を上げ、一旦部屋から出て行ったかと思えば、国旗がジャケットになっているCDを手にすぐにの元に戻ってくる。手慣れた動きで室内にあったオーディオプレイヤーを操作すると、一度の方を向き


「合唱が入ったのと、合奏だけのがある。」
「どっちもききたい」
「ん」


最後に再生ボタンを押した。
始めに流れたのは合唱が入ってるほうで、伸びるように綺麗な音域の広い声が歌を一層美しく引き立たせていて、聴いているとなんだか神秘的な気分に包まれる。アイスランドの家の言葉は分からないが、澄んだ風景が頭に浮かんでくるくらいに透き通ってる雰囲気が、とにかく綺麗で聴き入ってしまう。


「……素敵。賛美歌みたい」
「賛美歌だよ」
「あ、そうなの?」
「うん。」
「そっか……」



続く合奏のみも、の心を掴んだようで「想像してたのより、ずっと好み」と口にした彼女の隣で、アイスランドが微かに頬を染めて言う。


「そっちのも、日本の国歌も綺麗じゃん」
「そう?ありがとう」
「あれの歌詞ってどういう意味なの?古い日本語入ってるからわからない」
「そうだねー。まあ一説ではラブソングっていう見解も……」
「っ!?」
「…え?そんなに驚く?」
「当たりまえ。国歌がラブソングなんて初めてきいた。意味わかんない」
「私も詳しいことはあんまり……。ただ、歌詞は国歌として世界最古らしいよ」
「ふうん……」


そうこうしてる間に曲の再生が終了し、辺りから音がなくなる。
―――後味のいい静寂の中で、がぽつりと呟いた。


「……すごく、綺麗だった」
「そう」
「こういうのってじっくり聴く時間なかったから。次はアイス君がうちにおいでよ。30秒足らずの短い歌だけど、アイス君ちのに負けないくらい良い曲なんだ」
「うん。日本の景色見ながら、ワガシ食べて、の横で聴きたい」
「へへっじゃ、明日にでも!」
「なにそれ気早い。…………そうしよっか」




それは国が語る一つの歴史です