「…………これは」
が絶句するのも、無理はなかった。
今が手に持っているのは、フランシスのノートである。もちろん授業用の。それも数学の。本来ならば数式で埋め尽くされているはずのそのノートには、プロの画家が描いたかのような美女のイラストでいっぱいだった。全て鉛筆を使って描かれており、フランシスの器用さが一面に滲み出ている。何より描きこみ量が凄く、どこぞの王耀さんの筆絵と並べても見劣りしないであろう、それくらいに素晴らしいと賞賛できるものであった。
「お前、将来進む道決まったな……」
「こんだけ描ければ十分やろ」
の横からノートを覗き込むギルベルトとアントーニョも感嘆するくらいだ。
「……すごい」
身近にこんな才能を持った人物がいたことに、は純粋に感動している。
そんな三人のリアクションを見て得意になったフランシスは、薔薇を背景にしながら(イメージ)、キラキラのアレを振りまいて(イメージ)、言う。
「なんでも美しくっていうのがお兄さんのモットーだから。ま、絵はその基本中の基本っていうか?ある意味俺に与えられて当然の才能だよねえ」
「そういえば耀さんの絵もすっごい上手いんだよ!美術館に飾られてるのをそのまま持ってきたみたいだった!」
「へえ。にしてもお前の周りって絵描けるやつ多いよな。本田とかもそうだろ」
「俺も何度か見させてもろたことあるけど、あれはさすが本場なだけあるで」
「えー……あの、みんなお兄さんの言ったこと聞いてた?聞いてる?」
フランシスの声が届いていないのか、そもそも耳を傾ける気すらないのか。
三人の視線は変わらずノートの方に奪われており、いつの間にか雑談も始まっていた。
どこか疎外感を感じたフランシスがたちに近づき、にょきりと三人の間から顔を出すと、不貞腐れた調子で声をあげる。
「おいお前ら、作者を放って話しを進めるんじゃない」
「せやかてフランシス酔っとったやん。自分に」
「上手いのを鼻にかけすぎるのもよくないと思います」
「もっと慎ましく生きろ」
「えー」
口を『3』の字にして子供のような態度をとるフランシス。
もギルベルトもアントーニョもフランシスの性格は知りつくしてるので、こんなやり取りは日常茶飯事である。
「黙ってれば完璧なのに」
この言葉も、もはやの口癖だ。
「完璧ってなんかとっつきにくいじゃん。だから俺はこのままでいいと思うの」
「また始まったで」
「少しは卑屈になれっつーの」
「……でも、フランシスが菊さんみたいになっても……」
遠慮がちで、卑屈で、主張が苦手で、自分を低く評価するフランシスを想像する。
「違和感しかねえ」
「……だね」
「なんや?結局、『フランシスはこのまんまが一番やんな!』ってオチか?」
「うんうん。お前らみんな美しいお兄さんを敬うべきだよなんだよ!この素晴らしい絵と共にね!」
授業中の落書きってレベルじゃない
「だが断る」
「だが断る」
「絵はともかく、やっぱりもうちょっと控えめになったほうがいいと思います」
「えーは今のお兄さんが好きじゃないの?」
「そういう意味じゃなくて」