From:フランシス
Subject:を真正面から堂々と視姦する方法思いついた
俺ら「美術の絵の練習するからモデルになって」
↓
「それくらいならいいよ」
↓
デッサンとってる時ってモデルを凝視するだろ?これで怪しまれることなく
真正面から太股とか胸とか見放題だ!
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ギルベルトとアントーニョの携帯にこんなメールが送られてきたのは、二人が学校から帰宅してすぐのことだった。
「おお!」
玄関にて。
携帯を両手で握り、画面を食い入るように見つめるギルベルト。
エロ本を拾った時と同じくらい、輝いた目をしていた。
「やるやんあいつ!」
リビングのソファにて。
メールを開いて本文を読んだ瞬間、バネの如く跳ね上がり、寝そべっていた身体が起き上がったアントーニョ。
同じ部屋にいたロヴィーノが、驚いてジュースを吹きこぼした。
「お、反応早いねー。さっすが」
自室にて。
ギルベルトとアントーニョからの返信を受け取って、によによと変態チックな笑みを浮かべるフランシス。
二人からのメールの内容は、以下の通り。
From:ギルベルト
Subject:見直した
決 行 日 は ?
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From:アントーニョ
Subject:お前が友達でよかった
詳 細 は ?
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こういう時は本当にノリがいい。そんな悪友二人に苦笑しながらも、提案者のフランシス自身もノリノリでメールを返す。
To:ギルベルト
To:アントーニョ
Subject:ルートやロヴィーノにバレるなよ
>決行日
明日の放課後。
登校時と休み時間と昼には会議な
>詳細
三階に倉庫と化してる教室あるだろ?片付けて活用する話が出てるみたいなんだけど、
なかなか整理が進まないらしい。そこで、だ!
片付けを手伝うのを口実に鍵をもらう。
口実っつっても中は目茶目茶だろうから、せめて絵を描けるスペースだけでも
綺麗にして確保する。
で、を連れて来る。→計画実行
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「……兄さん?どうしたんだ、ずっと玄関にいて…上がらないのか?」
帰ってきてからというもの、ずっと玄関に居座りっぱなしで、家の中に上がろうとしない兄を、不審に思った弟のルートが様子を見にいくと、
「なんだあいつ、かなり計画的なんだな……。ふ……ふっふっふ……明日が楽しみだぜ…」
怪しい笑みを漏らしつつ、にやりと口元を吊り上げるギルベルトがいた。その姿は完全によからぬことを考える悪人の顔をしている。
「に、兄さん……」
良好な兄弟関係に距離が生まれた瞬間であった。
「いきなりデケェ声出すんじゃねえよハゲ!!」
顔面をトマトジュースで濡らしたロヴィーノが、ソファに座ってるアントーニョに向かって暴言を吐く。しかしアントーニョは携帯でのやり取りに夢中で、「ああ悪いごめんなー」と早口かつ適当に謝罪を寄こす。
「全然心がこもってねーぞチクショーめが!!……一体何に熱中してんだよ」
チッと舌打ちをしてジュースのペットボトルを冷蔵庫に仕舞うと、部屋を後にするロヴィーノ。閉めたドアを一瞥すると、アントーニョのハイテンションな叫びが聞こえてき、(本当になんなんだよ今日のあいつ……)と不気味そうに眉を寄せながら、2階への階段をのぼって行った。
***
翌日。
は困惑していた。明らかにフランシスとギルベルトとアントーニョの様子がおかしいのだ。朝は一緒に登校するのを断られて、休み時間になったら三人はを置いてこそこそと教室を出て行ってしまうし、昼食の時間も今日ははエリザベータ達と共にとった。誰に訊いても三人の行動の謎は解けず、もしかして気づかないうちに自分がフランシスたちの気を悪くすることをしてしまったのかと、ここ最近の自分の言動を見返してみたが、特にひっかかるシーンはなかった。それに昨日までは今まで通り接してくれていたのだ。だったらなんで?と悩むは当然知らない。知る由もない。フランシスたちが立てた計画を。それが三人の手で、放課後実行に移されようとしていることも。
***
放課後。
案外すんなりと鍵は入手できた。教師達も仕事に追われて倉庫の片付けどころではないのだろう。フランシスたちが買って出ると、むしろお願いしたいと言わんばかりに任された。―――正直なところ、腹を探られて長期戦になると予想していたのだが、これは嬉しい誤算だ。話し合いに話し合いを重ねた割りには、結果拍子抜けしたの一言だが。
倉庫という名の教室の中身は、案の定だった。
埃を被った机と椅子。紙類の束。文化祭などで使用された道具もまとめて此処に詰め込まれていた。
「うわぁ……ゴキブリ出てきそうやん」
「叩き潰せばいいだろそんなの」
「そうそう。いちいち気にしてたら掃除も進まないよ」
早くもやる気を無くしつつあるアントーニョを軽くあしらうと、あらかじめ濡らして絞っておいた雑巾で部屋全体の埃を拭き取っていく。机と椅子は綺麗に積み重ねてまとめる。教室に並べられる一般的な物から式等で使う折り畳み式の物まで、結構な量が長い間放置されていたみたいで、雑巾に付いた埃がそれを物語っている。机と椅子類を一箇所に集めただけでも十分なスペースはとれたのだが、他は言うまでもなく手がつけられていない汚いままだ。
「さて。場所は確保できたけど、あとどうする?」
「思ったより埃溜まってるからな。中途半端だし、これも全部綺麗にしたほうがいいんじゃね?」
「確かにここでやめるんもな」
そんなわけで続行である。
どうせやるならという気持ちと、掃除に対する気合が入る。
奥のロッカーから箒と塵取りを取り出し、隅から隅まで髪の毛一本も残すことなく掃きとって塵取りに集める。掃除当番はサボりがちで、クラスの同級生に任せっぱなしな三人は、今、真剣に掃除に取り組んでいる。(そのきっかけと理由は感心できたものではないが)会話はほとんど交わされない。掃除をする手だけが世話しなく動き続け、そして―――――空だったゴミ箱はみるみるうちにゴミや埃でいっぱいになり、大分溜まってきたところで、フランシスがそれらを処分しに一旦倉庫を出ていった。
「やろうと思えばできるもんだな」
初見よりはかなり綺麗になった倉庫―――いや、だんだんと教室の雰囲気を取り戻しかけているこの場所は、もう教室といっていいだろう。三人のおかげで元の姿に戻りつつあるのだから。
「なつかしいわ。ロヴィが小さい頃は、あいつ掃除すんの下手くそやったさかい、俺がその分も家の掃除したりしてな」
「ルートは掃除上手だったぜ。ま、それも俺も似た結果だろうけどな」
二人ともこう見えて掃除は上手かったりする方だ。ここに綺麗好きのフランシスも加われば、そこらの専業主婦集団には負けないくらいの実力を発揮するだろう。……普段はやる気よりも気だるさのほうが勝ってしまうのがキズだが。
「お待たせー」
ギルベルトとアントーニョが一時休憩をとっていると、ガラガラとドアが開いて、ゴミ箱を片手にフランシスが戻ってくる。
「お」
「早かったな」
「まあね。それとな、机と椅子はセットにして一階に運んでくれってさ」
「? 他のとこに全部移動さすんか?」
「多分。俺たちが掃除して片付けやってるって聞いた教師がね。とにかくここをスッキリさせたいんじゃないかな」
「そんなら、こっからは分担作業やな。俺ここに残って雑巾がけとか掃き掃除の仕上げしとくわ」
「じゃあ俺とフランシスは机と椅子を下に運ぶ、でいいな?」
「ラジャ」
生まれるのは、協調心。普段がグダグダなだけに、こういう場面では意外と協力して物事を進行させる力が三人にはあるのかもしれない。(そのきっかけと理由は感心できたものではないが)アントーニョは雑巾を絞り、ロッカーや窓、床を念入りにふいていく。フランシスとギルベルトは、机と椅子をセットにして一つ一つ下の階へ運搬する。
ここまできたら、途中でやめるというわけにはいかない。
―――それ以前に、三人の頭の中からは、本日の本題、何故この倉庫教室を掃除しているのかという理由さえも、すっかり消えてしまっていたのだった。
***
そして。
視界に広がるのは、見違える程に綺麗になった、かつて倉庫と呼ばれていた教室。
それと。
日が落ち、真っ黒な闇が空を染める時間帯。時計は丁度7時をさしていた。
「終わった……!」
「やっと、やな……」
「明日は絶対筋肉痛になるぞコレ……」
こすればキュッキュと音を立てそうなくらいピカピカな床に座り込み、達成感に浸る三人。そんな三人の背中に、年配の男性のものらしき声がかかる。
「いやー、よくやってくれた」
パチパチと三人に拍手を送りながらそう言う初老の教師は、満面の笑みを崩さぬまま、フランシスとギルベルトとアントーニョに近づく。
「本当に助かったよ、有難う」
「いやいあ、とんでもない」
「俺たちが進んでやったことなんやし」
「今回の掃除はなかなかやりがいがあったしな」
「立派だ。見直したよ。……ところで、」
汗を滲ませ、爽やかな笑顔でそう言う悪友三人をまじまじと見つめると、教師は一言。
「君達、どうしてこんな倉庫を片付けるだなんて申し出たんだ?」
沈黙。
「……あ」
「……あ」
「……あ」
「?」
「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」
校舎中に響き渡ったであろう、悲痛な叫び声。
下手したら校内を越えて近所の家々にも届いたであろう、絶叫。
廊下を疾走し、鞄を置いている自分たちの教室へと突進する勢いで入っていく。そして各自鞄を乱暴に漁ると、同じ物を手にとった。携帯だ。
From:
Subject:頑張ってね
先生からきいたよ。倉庫の掃除、頑張って。
私エリザとベルちゃんとセーちゃんと先に帰ってるから。また明日。
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「……」
「……」
「……」
メールを受信した時間は二時間前。
三人は顔を見合わせ、それから糸を引く人間がいなくなった操り人形のように脱力して、その場にへたりこんだ。
「……に言ってへんかったんか、放課後は残っといてって」
「…うん」
「俺たちが頑張った二時間はなんだったんだ……」
「……いや、これは神の思し召しだよ。大事な女友達にいやらしいことをしようとした、俺たちに対しての……」
「……」
「……」
「今日、俺んちで反省会、しよっか」
「(こくり)」
「(こくり)」
神様が仕事を放置していないようで安心しました
ちなみにと三人が元の日常に戻ったのは二日後です