フランシス・ギルベルト・アントーニョにとって、はかけがえのない存在だ。物心ついた頃から隣にいた、家族同然の存在。家が近いこともあってか、顔を合わせる機会も自然と多い四人。
小学生時代は毎日暗くなるまで外で遊び続け、服を汚して帰ってくるのなんて日常茶飯事であった。
活発で一時もじっとしていられないギルベルトが先頭を走り、好奇心旺盛なアントーニョが横に並び、ノリの良いフランシスが二人に続き、はその後ろで三人の背中を追いかけていた。
そんな男子の輪の中にいるだ。体中に傷をつくるのは必然だったといえる。
例えば、探検と称して裏山を探索したりして―――頬や手足を枝に引っ掻かれて切り傷がたくさんできた。木登りに悪戦苦闘して、手の平の皮が剥けた。追いかけっこをして転んで、膝を擦りむいた。
同級生の女子がお絵かきやままごとに興じる一方で、はフランシスとギルベルトとアントーニョと共に、外を駆け回る日々を送っていた。
しかし中学に上がると、も身だしなみを整えたり、服装や髪型に気を使ったりと、昔の活発さからは一転、女の子らしく振舞うようになったのだ。クラスの女子とのガールズトークはもちろん、恋バナや流行にもそこそこ敏感になり、女友達と過ごす時間が格段に増えた。フランシスたちとの関係は―――――――途切れなかった。
思春期特有の"異性と一緒にいる羞恥心"なんてものも意に介さず、学校内で声をかけ合ったり、登下校を一緒にしたりする内に四角関係の噂も流されたが、それでも平和的に中学生活は過ぎていった。
そして同じ高校を志望し、無事合格した四人は―――今に至るわけである。
「―――でさ、お前がでっかいクモ捕まえての肩に乗せようとしたんだよな」
「は泣いて嫌がっとうのにギルは『ほれほれー』ゆって面白がってたんやんな」
「あ、それ憶えてる!小三の夏に裏山までカブトムシとりに行った時のことだよね?正直あれやられたときは本気でギルベルトのこと嫌いになりそうになったから」
「……だから悪かったっつってんだろ」
「昔、私の家でお泊り会したよね。四人でお風呂の中で水鉄砲の撃ちあいしたり、寝る前に枕投げしたり」
「ああ、そういえば中学入学以来お泊り会してないね。どう?またの家で」
「善処します」
「おいフランシス、歳を考えろよ歳を。高校生の男三人が同級生の女子の家に泊まりこんだってことがもし学校の奴らに知られたらどうすんだよ。噂どころじゃねえよ転校したいのか」
「なら俺んちは?休日はフェリちゃんも来るさかい、ロヴィも入れてめっちゃ賑やかんなんでー」
「問題点はそこじゃねえ」
「あんときつくった秘密基地、今はどうなっとんやろな」
「雨風で吹っ飛んでしまってるか、どこかの子供達が後継いで使ってんじゃないの。にしても懐かしいな、それ」
「流行ってた戦隊ヒーローの真似事とかよくしてたよな。そこで。」
「私も三人の戦隊ごっこにはよく巻き込まれたっけ」
家路を歩く四人が、思い出話に口元を緩める。
十年以上の付き合いで得た、共有してる記憶は数え切れないほどにある。
どれも大事な四人の関係を形作る思い出たちだ。
当時は恥をかいた出来事も、本気でした喧嘩も、今となっては笑い話にして語ることができる。
同じ時間の中で、同じ場所で、同じスピードで隣り合って歩いてきた。
五年先も、十年先も、いや、生涯ずっと。この心地の良い関係が続いていくことを願わずにはいられない。
「あ」
が足を止めて空を見上げる。フランシスとギルベルトとアントーニョも同様に立ち止まり、の目線と同じ方角に視線を向ける。
「飛行機雲」
夕焼けの空に弧を描いた人工的な雲。綿菓子をちぎったような周りの雲とは対照的に、ハッキリとしたラインを浮かび上がらせている。
「おーこれはまた綺麗な」
「なんだ雲かよ」
「UFOちゃうんかいな」
フランシスはともかくとして、期待外れとでも言うように声を上げるギルベルトとアントーニョ。
その反応にが頬を膨らませた。
「いいじゃん飛行機雲。青春って感じがするじゃん」
「なんやそれ」
「お前の思い描く青春はつくづく謎だよな」
「そう?お兄さんは分からなくも……ごめんやっぱ分からない」
三対一で孤立無援。にとっての青春である「飛行機雲」は三人には理解されなかった。
「…………確かによくよく考えてみると青春とはなんか違う感じがする」
もの凄い早さで意見をひっくり返すに、「どっちだよ!」と三人が突っ込みを入れたのはそれこそ言うまでもない。
いつも通りの一日が、過ぎていく。
夕焼けを背に一緒に帰った回数
=数え切れない。