『恐怖!戦慄!夏の心霊映像特集!』と題された番組を体を縮ませて怯えた表情で見ている。顔面蒼白になりながらも、しかし、チャンネルを変える素振りはなくテレビから視線を外すこともない。――今回に限らず、心霊系がすこぶる苦手な反面"怖いもの見たさ"でこういった番組は必ずチェックしている。その心理は理解できなくもないが、見終わった後は一人で二階に上がることさえできなくなるのだから、毎回頼られる私は『最初から見なければいいじゃないですか』といつも言っているがまともに聞き入れられたことがない。今日も然り。
一方、座布団を胸に抱いて涙目になっているの隣でアーサーさんは冷静な面持ちでテレビを眺めている。恐怖映像で幽霊が姿を現したときもスタジオで悲鳴が上がったときも、表情一つ変えずに鑑賞している様子からはとてもと同じものを見ているとは思えない程落ち着いている。さすが、幽霊に住民票が出されたり、心霊スポットが観光地になったり、幽霊が出る家が由緒あるとされている国です。私もほどではないにしろ心霊系は得意でない身として、堂々としたアーサーさんの態度には感心せざるを得ない。同時に、国による価値観の違いを改めて自覚させられる。


二時間に及んだ心霊特集を最初から見ていたは、番組のスタッフロールが流れるとほっとしたように肩を上下させて息を吐いた。こんな調子で今日の夜はちゃんと寝られますかね……とそんな彼女の顔色を窺いつつ心配していると、何やら目を伏せながらチラチラとアーサーさんの方を気にし始め――次には小さな声でとんでもない発言を零した。


「あ、あの、アーサーさん」
「なんだ?……っつーか、、お前まだ震えてるぞ」
「は、はいっ、もう……大丈夫です。あの、それより……」
「?」
「こ、今夜……一緒に寝てくださいませんか?」


恥らいながら放たれたのその一言を聞いた瞬間、私の両手は反射的にちゃぶ台を叩いていた。
どれだけの心霊映像を見ても涼しい顔を崩さなかったアーサーさんがビクリと肩を跳ねさせたのを横目で捉え、あくまで冷静を装いながら私はゆっくりと口を開く。


「……?」
「い、一緒の布団で寝るとは言ってません!アーサーさんが寝る部屋に、私の布団を持ってきて……」
。アーサーさんはうちにお泊りに来たお客様ですよ?」


それ以前に突っ込みたい重要な事柄はあったが、己の性格上、確信を突かない遠回しな言葉が口をついてでる。「でも……」と諦めの悪い否定を呟くの横で、アーサーさんが私の様子を窺いつつ戸惑いを滲ませた声を挿んでくる。


「お、俺は別に構わねえぞ?むしろ……」
「なりません!――、そこまで一人が嫌というなら私と寝ましょう」
「で、でも、菊さんは幽霊とかに強い方じゃないじゃないですか……!だから、アーサーさんがいいなら、アーサーさんと」
「ですから!なりませんと!!」


確かに、怪奇現象といったものに耐性があり、もし"本物"と出くわしたとしても持ち前の不思議な力で対処してしまえるアーサーさんはそういった意味ではとても心強いだろう。でも、だからといって、妹のように可愛がっているを友人といえども一人の男であるアーサーさんと一緒の部屋で二人きりで寝かせるだなんて絶対にできません。『むしろ……』ってなんですか。満更でもないどころか歓迎を匂わせる男と寝かせられますか!絶対に。絶対に……!!


「……だったらこうしましょう。私ととアーサーさんと三人で寝ましょう。私が真ん中で、は私と同じ布団を使いましょう!これならいいです!!」





妹の恐怖夜と兄心



私はに手なんか出しません。今まで面倒をみてきたのですから、の方だって私のことは疑ったり嫌がったりしないでしょう。多少スペースが狭くなったとしてもがこれ以上アーサーさんと寝たいと言い続けるよりは……!!

の要求を呑むまいと半分我を忘れて必死になっていた私は、先程自分がに対して言った言葉と今しがたの自分の提案が矛盾していることにも気づかないまま――不承不承といった表情のと苦笑いを浮かべるアーサーさんに同意を求める熱い視線を送り続ける。


「ま、まあ……そう、だな。そりゃ、心配だよな……」
「……分かりました。では、それで」
(菊さん、声張り上げすぎです……)