※ 国の位置づけ・性格・口調など捏 造 過 多 注 意
※ 赤髪一番目=スコットランド ツンデレ二番目=北アイルランド 曲者三番目=ウェールズ
待ちに待った日だった。
先進国の半身でありながら、政治業務や国際会議にはほとんど姿を現さず、ゆえに他国との交流が少ない"彼女"に会える機会は貴重だった。彼女と共に日本という国として成立している兄のような存在の菊が代表として国務をしているので、仕事では断然菊と顔を合わせる頻度の方が多い。
プライベートでも西洋から東洋まではかなり離れており、とても気軽に遊びに行ける距離ではない。仕事に追われてる身として十分な時間をとることがなかなかできない事も考えれば、今回の久々の再会に胸が躍らないわけがなく。
度々日本の家を訪れ、長い時を費やして数々の交流を経て、想いを寄せた"彼女"――のいる元へ、イギリスの足は軽やかに進んでいく。
目的地である日本の家の前まで来たとき、すでにイギリスの心臓は激しく脈を打っていた。まだと会話をしていないどころか姿さえも見ていない。しかし、今目の前にあるチャイムを鳴らせば、笑顔で挨拶をしながら戸を開けて来てくれるだろうを想像するととても落ち着いてはいられなかった。
インターホンに手を伸ばしたかと思うと、数秒後には力なく垂れ下がり――かと思えば再び力が入り、その動作が5、6回ほど繰り返された末、数分かかってやっとボタンを押しこむことに成功した。程なくして「はーい」というイギリスがずっと待ち望んだ声が響いてき、彼の心臓が跳ねると同時に背筋がピンと伸びる。
廊下を歩く音が近づいてき、ガラスの引き戸に人のシルエットが映る。次の瞬間には対面するだろうというタイミングで、イギリスはできる限り口角を上げて口を開こうとしたのだが――――
「やあ」
ガラガラと音をたてて開かれた戸の先にいた人物を目にし――言葉を紡ぐ直前で硬直してしまう結果となった。
「遅かったね。俺達、先にお邪魔してるよ」
固まるイギリスに対し、にこやかに語りかける赤髪の青年。太陽のような頭髪の色も相まって温厚そうなイメージを受けるが、それを向けられたイギリスはというと唇をパクパクとさせながら血の気を失わせていた。
「スコットランドさん……!私が出ますので」
玄関先でそんな思いもよらない邂逅がなされていることも知らず、早足でドタドタと駆けてくる小柄な女性の影。スコットランドと呼んだ赤髪の青年を居間に戻るよう促しつつ、依然として石化しているイギリスの前に出る。
「お待ちしていました、イギリスさん。どうぞお入りください。……。……?イギリスさん?」
客人をもてなすに相応しい笑顔で迎えたが、棒立ちしたまま口元をヒクつかせているイギリスの様子がいつもと違うことに気づき、イギリスの顔の前で手を振ってみせるこの家の主の一人――――。「え?イギリスさん?」と無反応のイギリスに戸惑い、アワアワとし始める彼女の背後から、また新しい声が響く。
「あ〜、やっときた」
「別に帰ってもいいぞ」
穏やかそうな声色の明るい金髪をもった童顔の青年と、無愛想な台詞を放った生成り色の頭の鋭い目つきの青年が、障子戸を開いて廊下に出てくる。
「あ、北アイルランドさん、ウェ……カムリさん。あの、イギリスさんが、動かないんですけど……」
もはやどこの筋肉も稼働していない顔面蒼白のイギリスと、廊下に立っている青年達を交互に見るは、状況をいまいち掴めず首を捻るばかりだった。
× × ×
「え、ご存じなかったのですか!?」
昼食の準備に追われて俺を出迎えられなかった菊が、から俺の様子を聞き、兄さんたちがいる部屋とは別の場所に案内してくれた。
現実逃避を始めた混乱する頭で、なんとか冷静に事の考察をしようとするも、なぜ兄さんたちが日本の家にいるのかという疑問がどう考えても解けず、「なあ……なんで兄さんたちがいるんだ?」と菊に尋ねたら上記の返事が返ってきた。
「ご存じなかったって……。兄さんたちは日本の家にくる予定があったのか?口振りから俺が来ることを知ってたみたいだが、俺は兄さんたちに何も知らせてないし、あっちからもお前からも何も聞いてねえぞ。……つーか、なんでよりによって今日……」
「えっ?あの……えーと、私は、スコットランドさんたちから、イングランドが日本に行くなら俺達ももう一人の日本の子……のことですね。に、会ったことがないので国際交流として会ってみたいとのお話をいただきまして……。イギリスさんには今日自分たちもここに来ることは知らせてあって了承も得てるから、とお聞きしているのですが……」
「………………」
焦って前のめりになる俺を両手で制しながら、菊がゆっくりと事のあらましを説明する。
まとまらない思考で今の話を暫く反芻して――また頭を抱える。つまり兄さんたちは俺がこの日に日本の家に行くという情報を俺が知らないうちに入手し、適当な理由をつけて嘘をついてまで、俺に嫌がらせをするためだけに来日したのだろう。何が国際交流だ。何百年も一緒にいる人の考えは嫌でも分かる。
日本の家に着く前、久しぶりにに会えることに高揚していた気分は一気に落ち込み、兄さんたちの存在を知り酷い絶望感へと変わった。素晴らしい一日になるはずだった今日という日が黒い何かに浸食されていく気がした。
「イ、イギリスさん」
畳に手をついて項垂れる俺に、菊の心配そうな声がかかる。
「……なあ」
それを遮る形で、自力で顔を上げる気力もないまま、先ほどの玄関先でのやり取りを思いだし、気になっていたことを尋ねる。
「兄さんたち、ここに来てどれくらい経つんだ?」
「そ、そうですね、二時間くらいでしょうか」
「……。とも結構話してんのか」
「そうですね。……あの、何か不都合でも?」
「そんなの挙げていったらキリがねえけどな……。いや、がウェールズ兄さんのことを『カムリさん』って呼んでたから」
「ああ……。私も馴染みが薄い上に久々にお会いしたので最初は何のことか分からなかったのですが、確か」
「ウェールズ語で"ウェールズ"」
顔も頭も真っ白になっていたが、その時のや兄さんたちが言っていたことは案外思い出そうとすれば思い出せた。
一度盛大な溜め息を吐き出し、俺の肩に手を伸ばしたままどうすればいいのか分からず態勢を変えない菊を横目で見て、重い体を起こす。
「……なんか、悪いな」
「いえ。私もイギリスさんに確認も取らず申し訳ありませんでした」
「お前のせいじゃねえよ。つっても、俺だけでも気ィ使わせるのに、兄さんたちまでいたら」
「――私と違って、他の国との交流がほとんどないにとっては、貴重な機会だと思ってます。うちも私とだけで使うのには場所が余りますし。近場にホテルをとったらしいので、お三方はうちにお泊りにならないようですが……」
「そ、そうなのか」
「ええ。イギリスさんに連絡が入ってなかったことは想定外でしたが、うちに関しましてはお気になさらず。ごゆっくりしていただければと思います」
てっきり四六時中ここにいるのかと思ったが……良いことを聞いた。もしかするととまともに話せないかもしれないと落ち込んでいた俺の曇った心に僅かに光が差す。――ああ、どうか早めにホテルへ行ってくれないだろうか。そして次の日には自分たちの国へ直帰してくれないだろうか。
一階の居間で兄さんたちが何をしているのか気がかりになりながら、そんな願望を抱く。俺に対してはかなり乱暴な人たちだが、一国家としての常識はあるはずなので日本であまりぶっ飛んだ事や派手なことはしないと信じたい。レディであるがいる限りは紳士として行動してくれそうだが……。…………。…………ん?
「イギリスさん?ぼーっとされて、本当に大丈夫ですか?」
「、今どこにいる」
「え、なら、下でスコットランドさんたちと一緒にいるかと……」
その言葉を聞いて俺は足をもつれさせて立ち上がると、「イギリスさん!?」という驚いた菊の声を背中に受けながら、障子戸を勢いよく開いて一階へ続く階段を下りていく。
保護者の菊もいない部屋で一人が兄さんたち三人の相手をしていることに今更ながら気づき、全力で居間へと駆ける。
× × ×
「うるさいよ、イングランド」
戸を開けた俺に真っ先に向けられたのは、赤髪を揺らして振り返ったスコ兄さんの鋭い視線と俺を静かに窘める一言だった。幼い頃から苦手としている威圧感に反射的に気圧されてしまうが、今はそれに怖気づいている場合ではない。
静かな家の中で騒音をたててしまったことについては反省するが。
「イギリスさん……?」
兄さんたち三人とちゃぶ台を囲んで座っているが怪訝そうな表情で慌ててやってきた俺の顔を見る。
緑茶が入った人数分の湯飲みと、真ん中に置かれている客人用とみられる和菓子が、穏やかな雑談が行われていた証拠と言わんばかりにちゃぶ台の上に存在している。四人の距離が近すぎることもなければ、兄さんたちの手がの体に伸びていることもない、至って平和的な光景が広がっている。
「……」
俺としては兄さんたちが紳士の皮を剥がして執拗にに絡んでいるのではないかとハラハラしながら来たのだが――――。
「、俺達もイギリスだぞ」
「え、あっ、そうでした」
「まあ……こいつが俺たちといる時の呼び名なんざまだ慣れねえよな。……別に、気遣ってるわけじゃないぞ」
「はい。イングランドさんとはあまり呼んだことがないのでまだ馴染めないですね」
少し困ったように笑うの隣で、素直じゃないことを言いつつそんな彼女から顔を逸らして茶を啜る北アイル兄さんを見ていると、既視感を覚えるのはきっと気のせいじゃない。心中で溜め息を吐くと同時に、の様子に特別変わったところがないことに安心すると、途端に脱力感に襲われる。
「えっと、イ、イングランドさん。大丈夫ですか?菊さんとのお話しの方は……」
「……俺が来るまでのことは、聞いた」
「そ、そうですか。……では、あの、お茶を入れてきますので、どうぞ、こちらで腰を下ろしていてください」
肩の力が抜けてボーっと突っ立ってる俺に喋りかけると、正座していた足を擦りながら台所の方へと向かう。彼女が居間から消えるのと一緒のタイミングで兄さんたち三人の視線が俺に集まってくる。
「座りなよ」
ウェル兄さんが自分の右隣りのスペースを手でポンポンと叩きながら俺に微笑みかける。
その、人の良さそうな笑顔が表面通りの優しさだけを含んでいるわけではないということを知っている身としては、素直に好意を受け取ることにも抵抗を感じる。
「……はい」
居心地の悪い兄さんたちの注目を一身に浴びる中で、指定された場所に静かに座り込む。
外から聞こえてくる食器同士が擦れる音や、階段を下りてくる音に気をとられ、『が俺のために準備をしてくれてるんだな』『あ、菊が二階から下りてきたな』と思わず考えてしまうのは、もはや一種の現実逃避に近い。俺が一番会いたくない人たちが一番会いたい人の家にいる現実をまだ本能が受け入れない。久々に友人と好きな人に会いにいったら最悪の形でその再会をぶっ壊されたんだから、当たり前といえば当たり前だ。
「ちゃんには僕たちが日本に行くこと、スォイゲルに伝え忘れたかもしれないって言っておいたから」
「……。ちなみに、どうやってこの日俺が日本に行くことを知ったんですか」
「それは秘密」
恐る恐る聞く俺とは反対に常に余裕に満ちた表情で口を動かすウェル兄さん。俺のことを自国語で呼ぶのは国内にいるときだけでなく、どこにいっても変わらないようだ。にも英語ではなくウェールズ語で自分を呼ぶことを教えていたらしいし、この人はどこに行っても自己を崩さない人だということを再確認する。散々いじられ続けてる俺にとっては悪い意味でしかないが。
「じゃあ、なんで来たんですか」
「分かってることをいちいち聞くべきじゃないよ、イングランド」
「俺への嫌がらせですか」
「そうそう。分かってるじゃんか」
はは、と傍から見れば好青年にしか映らない爽やかな笑みを浮かべて笑うスコ兄さんは、和菓子に手を伸ばして話を続ける。
「それだけじゃないけどね。お前が惚れたっていう亜細亜の女も見たかったし、実際この日本って国にも興味はあったよ。お前が毎回女にプレゼントするとしか思えないものを持って行くとしたら、この国しかなかったからね。そんなに良い女がいる国なら、自然と興味がわくだろう?」
滅茶苦茶だ。
要約すると俺の恋路を突っついて遊びたいだけじゃないか。俺がに惚れてることや俺が日本に行く度ににプレゼントを持って行ってることを何故知ってるのだとか、そこはもう聞いてもまともに答えてくれないことくらい想定済みなので突っ込まない。
包み紙を丁寧に剥がし、桜を模った繊細なつくりの和菓子をじっと見つめたあと、一口サイズのそれをヒョイと口に運んだスコ兄さんは、俺には一瞥をくれることもなく次の話題を切り出す。
「……で、のことだけど。あの娘、躱し方が上手いからこっちのペースに乗せられないんだよね。おっとりしてそうに見えて隙がないから、お前も結構翻弄されてるんじゃないの?イングランド」
「に、何かしたんですか、兄さん」
「してたら、なんだ?」
「――!!」
つくっていた笑顔の種類を変えたスコ兄さんの雰囲気から穏やかでないものを感じた俺は、眉間に皺を寄せて喋りかける。――と、横から北アイル兄さんが淡々と挑発の一言を放った。聞き捨てならない言葉に、思わずちゃぶ台に両手をついて身を乗り出す俺とは裏腹に、顔色一つ変えずに毅然とした態度を保ち続ける北アイル兄さんは、呆れ混じりの目で俺を見る。
「会話して観察しただけで、なんか文句あんのか」
「それだけなんですか」
「他に何を疑ってる?」
「まあまあ、イングランド。お前が考えてるようなことはしてないからさ」
「……」
「お前、俺達がに触ったんじゃないかって焦ってるんだろう?そんなの、お前がいない所でするわけないじゃないか」
「……は?」
「スォイゲルは鋭いんだか鈍いんだかわかんないね〜」
俺と北アイル兄さんを宥めるように制すスコ兄さんと、ニコニコしながらゆるい口調で意味深なことを言うウェル兄さんの意図が掴めず、胸騒ぎを感じ始めても俺は何も口を挿むことができない。
「すみません、お待たせしました」
頭の整理がつかないままの俺に無論兄さんたちからの説明はなく、戸を開けてが居間に戻ってくる。彼女が持っているお盆の上には、湯気がたった湯飲みが一つ。
「熱いので気を付けてくださいね」
俺の前に丁寧にそれを置くと、また台所へと消えたあと今度は手ブラで戻ってくる。彼女が障子戸を開いた際、台所の奥にいた菊がチラリと俺の方を確認して会釈したのが見えた。……察しの良いあいつのことだから、あえて俺の後は追ってこなかったのだろう。俺と兄さんたちの間に入っていきにくいのもあったかもしれないが。色々と心配をかけたり驚かせたりして、本当に世話しなく気を遣わせてしまったと思う。
俺も一度頷いて菊の気遣いに無言の返答を返すと、心中で一つ深呼吸をする。
帰ってきたは、そのまま自分が元いた場所――スコ兄さんと北アイル兄さんの間に腰を下ろして正座する。
「、俺、和菓子好きになったよ」
「本当ですか?」
俺と対話する時に放つ邪気はどこかへと吹き飛ばし、裏のない爽快な笑顔でに話しかけるスコ兄さん。それを聞いては声を弾ませ、嬉しそうに頬を緩ませる。
惚れた身としては最高に可愛いと思える表情だったが、その視線が俺の方へ向けられてないことに幾分かムカムカとした気持ちが込み上がってくる。
「ああ。本当さ。ショートブレッドやスコーンもいいが、アンコやモチもいいね。今度はと菊に俺の家の菓子を食べてもらいたいな」
「はい。是非」
「は、ほかの国の食べ物は食べたことある?」
「ええ、イタリアさんとかドイツさんとか中国さんとか……菊さんのご友人の方々のところのものなら」
「そっか。あんまり国内から出ないから交流は多くないんだね。……でもこれからは、もしかしたらも国外に出て菊と同じように他の国たちと関わっていかなきゃいけない日がくるかもね。今は自国民と接することを主な仕事にしてても、そのうち多くの国と交流するかもしれない。……だから」
スラスラと流れるように話題を移しながら、体をの方へ向け、真正面で向かい合う形の体勢をとるスコ兄さん。その口角が怪しく持ち上げられたのが俺の視界に映り――――
「ほら、まあ、今のうちに慣れておいた方がいいと思うんだ。俺たちなら練習台になれるし」
「……と、いいますと、どんなことを?」
「まずは基本からだよね」
頭上にクエスチョンマークを浮かべるの疑問には答えず、有無を言わさないまま兄さんの両手が十分届く距離にあるの腰に伸びる。スコ兄さんが何をするつもりなのかを瞬時に察した俺は、咄嗟に立ち上がって二人の間に割り込む。を背中に隠す形で。
「イングランド、邪魔」
俺に腕を払いのけられた兄さんは、怒りと嘲笑が混じったような表情で俺を睨む。昔から見慣れた眼光には相変わらず怯みそうになるが、今はここで引くわけにはいかない。
「兄さん」
「だから、基本だよ。ハグでの挨拶なんて」
「俺たちの家では初対面の人間にはほとんどしないじゃないですか」
「がラテンの奴らと絡む時のための練習だって言っただろう?」
不敵に笑む兄さんが、やれやれといった風に肩を竦ませてみせる。その余裕に満ち溢れた態度を見て、俺は考えていたことを思い出す。
"嫌がらせ"
"兄さんたちが俺に内緒で日にちも合わせて日本の家に来たのは、俺への嫌がらせに違いない"
長年の勘から兄さんたちがここにいる理由を悟った俺は、今のこの状況を客観的に分析し始める。
兄さんは俺がに惚れていることを知っている。その情報を知った上でわざわざ日本に来てまでする俺への嫌がらせといえば、に関係することだろう。を使って俺を一番不快にさせることと言えば――"俺の目の前でに手を出すこと"。それが何より俺に屈辱を与えることができる。
"『お前、俺達がに触ったんじゃないかって焦ってるんだろう?そんなの、お前がいない所でする分けないじゃないか』"
さっきはイマイチ呑み込めなかったスコ兄さんの台詞が、ここにきてようやく理解できた。
「イ、イングランドさん」
オロオロとしたの声が俺の背中にかかる。
二階から下りてきたときといい、思考より体が先に動く自分の癖に戸惑わせてばかりで罪悪感が湧く。
眼前の兄さんへの警戒を解かないまま、の方を振り返ると――――
「、こっち来い」
丁度そのとき、北アイル兄さんがの肩に手を置き、俺から距離をとらせようとする。無論それに俺の関心がいかないわけがなく、俺の注意の対象は世話しなく変わる。
「イングランドお前、あんまりをビビらせるな」
「そうだよ、慌てすぎ。ほら、お茶も零しちゃうところだったじゃない。せっかくちゃんがいれてくれたのに」
「さっきから愚弟が騒がしくて悪いな」
「い、いえ!私は大丈夫です」
男にも外国人にも慣れてないはずのが兄さんたちの積極的なコミュニケーションから逃げないのは、拒否したら失礼にあたるという優しさなのか、受け入れるのが礼儀だと正直に接しているのかは知らないが――――とりあえず北アイル兄さんは、一刻も早くの肩から手をどけてほしい。
「イングランド〜?」
北アイル兄さんに物言いたげな眼差しを送っていると、前から語尾を伸ばしたスコ兄さんの声がかかる。
「、ちょっと離れとけ」
「? はい」
「うんうん、こっちおいで〜」
北アイル兄さんとウェル兄さんが不穏なことを呟いて部屋の隅にを誘導させる。
「ビビらないでよイングランド。こんな所でお前に殴りかかるわけないだろう?と菊に迷惑もかかるからね」
「……ははは」
目も口も笑ってるはずなのに黒い何かを纏ってるのが分かるスコ兄さんと、と一緒に俺から距離をとる北アイル兄さんとウェル兄さん。三人にひたすら弄ばれっぱなしでとまともに接することもできてない現状に、疲労が滲んだ笑いが口端から漏れる。
……本来ならと雑談して、菊も一緒にちゃぶ台を囲んで三人で会話に花を咲かせて、あわよくばと二人きりの時間を過ごして――そんな来日一日目になるはずが……。に手を出されないかとハラハラしながら何故こんなに胃を痛ませなければいけないのか。
俺だけにいちゃもんをつけてくるのは慣れてるので別に構わないが、ハッキリと拒絶のできないを勢いで自分たちのペースに乗せるのはやめてほしい。本当にやめてほしい。
台所から菊のつくる昼食のいい匂いが漂ってくる。
まだまだホテルへ行く気配を見せない兄さんたちもきっと一緒にとるのだろう。考えるとまた憂鬱になるが、今度こそはの隣を確保しようと心に決める。これ以上兄さんたちの好きにさせるのは癪だ。
「、何もしないからこっちにおいで」
憮然とした表情の俺とは正反対に、にこやかにに話しかけるスコ兄さんの一言で、また俺と兄さんたちのを巡る攻防戦が始まる。
× × ×
「イギリスさんも大変ですねえ……」
中断していた昼食の準備を再開させながら、居間から聞こえてくる応酬に耳を傾ける。イギリスさん……イングランドとお兄さんたちの仲は決して良いものではないみだいだが、全員紳士を名乗るだけあって身内であるイングランドさん以外には基本的に親切で常識を弁えている。私としては遠慮のないアメリカさんやロシアさんや中国さんよりも、ずっと……。……。……いえ。
なので私としては信用して、国際交流としてもに接客を任せていたのだけれども――イギリスさんにとっては聞き逃せない事実だったようで……。
イギリスさんはイギリスさんで譲れないものもあったでしょうし、兄弟間の会話に割り込むのも場違いな気がしたのであの時はあえて居間まで追うことはせずに――だけどにもし何かあったらいけないので最低限の注意だけは注いで六人分の昼食の支度を続ける。
居間は依然として賑やかだ。
SUPER MEAN BROTHERS!!!