「……?」
天気予報も聞かず朝から家を飛び出して池袋の町を散策していた結果がこれだ。土砂降りの雨の中、特にどこに身を寄せることもせず公園に突っ立っていた。そんな時に、自分を呼ぶ聞きなれた声が耳に入る。その声に反応して顔だけ向きを変えると、案の定バーテン服を着た金髪の青年が目に入った。
「静雄…」
「お前こんなとこで何やってんだよ」
呆れたような顔での方に歩み寄る。二人しかいない公園に、水溜りを踏むパシャパシャという静雄の足音だけが響く
「朝からずっとブラブラしててねー、そしたら雨降ってきた」
「近くに雨宿りできるとこあんだろ」
「んーだって全然止む気配ないからさ。それなら濡れた方が気持ちいいかなって」
「…風邪引くぞ?」
「そういう静雄もびしょ濡れだよ」
「傘持ってなかったからな」
そんな会話をも掻き消すほどの強い雨がと静雄の体を打ちつける。お互い服はたっぷりと水分を含んで濡れていたが、すでに前から雨の中にいたせいかもはやそのことに関して気を使うようなこともしなかった。
「もう仕事終わったの?」
「ん」
特に長続きしない会話をしながらが辺りを世話しなく見渡す。公園内はと静雄の二人しかおらず、道を歩く数少ない人々は、傘も差さずに突っ立っているたちを時々視界に入れながら、それでもすぐに視線を前に戻して歩き続ける。
「…どうした」
「いや、なんか新鮮だなって思って」
「何が?」
「なんとなく」
理由を語ることなく柔らかい笑みを静雄に向ける。のいつも可愛らしさと、雨に濡れた髪と服が普段はない妖艶な雰囲気を醸し出していた。
そんなを上方から見つめる静雄の視線に気付いたのか。暫く無垢な笑顔を浮かべていたも、自分を見る静雄の目がいつものものとは少し違うと感じ取り、疑問符を浮かべて首を傾げる
「静雄…?」
彼を知る者から見れば、今の静雄の目や表情は何か儚いものを見つめるようであり、いつもの彼を彷彿とさせるようなものではなかった。
―――刹那、の頬に静雄の手が触れる そのまま引き寄せられるようにそれは重なった
勿論には一瞬の隙さえも与えられず、勢いで上手くバランスを取れなくなった体は静雄の腕の中に収まる。焦ることもなく、静雄に身を預けながら。
暫くの沈黙が二人を包んだ。
もはや雨に濡れた部分しかないような服から微かに伝わる人肌の温もり。お互い口を開かない中で、が静雄の胸に手を置き、離れるように距離をとる。それから顔を上げて自分よりも高い位置にある静雄の目を見る
「…静雄」
「」
「ん?」
「…、愛してる」
「うん」
いつの間にか辺りは静寂に変わっており、傘を畳む人たちが視界の隅に見えた。
「帰ろう」
静雄の手を取って公園の外へ出る。最初はされるがままに手を掴まれながら後ろを歩く静雄だったが、指を絡めての手を握り返し、横に並んだ。
びしょ濡れになった服を身に纏いながら手を繋ぐ二人に度々向けられる視線に、当の本人たちは気にも止めず帰路を歩く。
「でも静雄も告白の言葉が愛してるだなんて大胆だよね」
「うっせ」
赤くなりながら照れる静雄をが楽しそうに、嬉しそうにからかいながら。
雨音ラブアフェア
「ほらあれ、静雄とじゃない?」
土砂降りといえる雨が上がった後、マンションのベランダで景色を眺めていた新羅が斜め下を指差して声を上げる。
少し遠くに、それでも辛うじて誰だか判別できるような距離には見慣れた友人二人の姿があった。
「二人でどっか行ってたのかな」
疑問の混じった言葉を吐く新羅の横でセルティは全てを察したかのように、PDAに『なるほど』とだけ打ち込み、新羅の目の前に突き出す。
え、セルティ?何が?何がなの!?と騒ぐ新羅を尻目に部屋の中へと戻り、携帯を開く。
――人間よりも視力が勝っていたセルティには、ハッキリと見えた。
いかにも"恋人同士"という雰囲気を纏って手を繋ぐ、静雄との姿が。
帰宅後、の携帯に一通のメールが受信される。
それは一番仲の良い友人からのものであり、肝心の内容は自分と静雄の事で、最後には「おめでとう!」とかかれていた。
「どこで見てたの!?」というメールをが赤面しながらセルティに送ったということは…また、別の話。