※狩沢と遊馬崎が好き勝手妄想してます
















自分の目の前の空気を切るように、勢いよく読んでた本を閉じる。静かだったバンの中に、今までの静寂を破るのには充分な音が響いた。同時に、音の原因を生み出した者以外の3人の肩が跳ね上がり、何事かと音のした方へ一気に視線を向ける。


「狩沢さん…?」

遊馬崎が隣に座る狩沢を疑問の混じった声で呼んだ。狩沢は、本を閉じた状態の動きを崩すことなく顔だけをゆっくりと上げ、自分の真正面にいる一人に、呟くように口を開く。


ちゃんに会いたいなぁ」



今までの緊張感を一気に取り除くように発せられた一言は、狩沢以外の3人を脱力感に見舞わせた。

「…なんだいきなり」
「いやー、だってね。ドタチンから聞いた話を思い出してるとうずうずして」
「驚かせるな」


呆れ顔で溜息をつき、狩沢から視線を外して体勢を戻す。門田の隣の運転席に座る渡草も、同じく前を向き直した。一方、後の席では遊馬崎が狩沢の発言に便乗し、いつもの二次元トークとは少し違った会話が繰り広げられる。ただ対象が二次元から三次元へ変わっただけで内容は普段と然程変わりはないのだが。



「そういえば最近見てないっすねー」
「あぁー、私の三次元での唯一の萌え補給なのにぃー」
「あ、でも何週間か前見たときは臨也さんと静雄さんと…」
「えっ!?」
「一緒にいたような気がしますよ」
「うそ!どこで!?」
「なんかその辺ブラブラしてたと思うっす」
「えぇー見たかったなぁ」

実に残念そうな顔をしてガクリと肩を落とす狩沢。そんな会話を聞いてか、門田が二人の方に耳を傾ける。
――あの3人、まだ一緒に行動したりしてたのか。


高校時代、は臨也と静雄とよく一緒に居たとことを門田は記憶している。何故かが間に入れば、あの二人は争うこともしなかったし――――まぁ、が絡めば別の意味で口喧嘩はしてたけどな。

そんな昔話を狩沢と遊馬崎にしたところ、
「それなんて逆ハー?―――」「一人の女の子を取り合う王道展開―――」「青春キタコレ!―――」「鈍感なたん萌え!―――」、などの一般人には理解できないような単語を出ながら、しつこく続きを促してきた。そのせいで門田は自分の知ってる範囲でののことを全て話すハメになり、挙句に狩沢たちはに深い興味を持ってしまい――――あぁ、なんであの時自分は話題にと、高校時代の話を持ちだしてしまったんだろうか。

少し前の自分の悔やむが、こうなってしまってからでは既に遅い。本日2度目の溜息は、後で語り合うように会話をする狩沢と遊馬崎の声によって掻き消された。



「――で、その3人はただ横に並んで歩いてただけじゃなかったんすよ」
「えぇ!?」
「まぁ俺もハッキリとは見てないんで曖昧っすけど…多分あれは手を繋いでたと思います!」
「おぉ!?」
「恋人繋ぎで!」
「おぉーーっ!!」
「高校の時から変わらずの関係ってことっすよ!」
「うわぁ萌える!…で、肝心のは?」
「あぁ…それがイマイチ分かんないんすよねぇ。相変わらず仲が良さそうな感じはしてましたけど」
「あーちゃんももどかしいなぁ、もう」
「だがそれがいいんすよ!今となっても二人の間で揺れ続けるヒロイン…!まさにこれからじゃないっすかぁ!」


いつものように自重という言葉をそこらへんに捨て、堂々と会話をする狩沢と遊馬崎は、下がることのないテンションで口を動かし続ける。


「でもさぁ、実際ちゃん自身はどうなんだろうね」
「うわー難しいところっすねぇ…どうも二人に同じように接してるだけあって一目では分からねぇっす」
「だよねー。それにもしかしたらあの二人じゃなくて他の人に気があるとか…えーと、ドタチンとか!」
「はぁ!?」


珍しく二人の会話に耳を傾けていた門田が、反射的に声を上げる。そんな門田を狩沢と遊馬崎は一度、珍しそうな目で見てから次はにやにやと少し怪しい笑顔を浮かべて、見直す。


「へぇー…もしかしてドタチンってさぁ」
さんに…気が?」
「…なわけねぇだろ、お前らなぁ」
「あ、今言葉の間が空いた!つまりその短い間にさんを思い浮かべて…」
「なになに!?これは三角関係から四角関係へと発展フラグですかぁー?」
「だーかーらー、違うっつってんだろ」
「…もう、門田さんも素直じゃないっすねぇ」
「ドタチン、自分からフラグ折っちゃダメだよ」
「はぁ…?」


相変わらず意味の分からない言葉が飛び出す。だがその意味を聞くこともせず、門田は狩沢と遊馬崎から顔を背けると、今度は冷静に考えだした。

――確かにのことは嫌いと言えば嘘になる。それは今でも付き合いのある高校時代からの大事な友達としての意味で―…

珍しく考え事をする門田の後ろでは、先程と変わらずのテンションで狩沢と遊馬崎が喋り続けている。


「いやーこれは本当に目が離せないっすねー」
「ん、ちょっとまって」
「? どーしました?」
「もしかしてちゃんは付き合うとかは考えていなくて…でも、」
「でも?」
「ヤることはヤっちゃった…とか?」


――――――――!?
その時、今まで考えていたことが吹き飛び、門田の思考が停止する。


「ちょ、狩沢さんそれ…!」
「そうだよ…!もしかして本当にちゃんはもうすでにキレイな体じゃなくて…」
「……!」
「否が応でも二人に犯されてたりして…!」
「…うわぁヤバイ!どんどん脳内が18禁に染まっていくっすよ…!?」
「あぁー三次元でこんなに興奮するのって始めてかも!」
「……お前ら、」


勝手なことを言い合って自分たちの妄想に顔を赤くしながら、それでも興奮を隠し切れない狩沢と遊馬崎に、門田までもが赤くなりながら一喝したというのは言うまでもない。




妄想デイズ


渡草「…話についていけません」