※R指定手前くらいまでのぬるいエロ有り。後悔しかしていない
「……」
深いキスのあと、肩を上下させて息をするを呼ぶ。
いつの間にか辺りは真っ暗になっていて、公園内にも静けさが訪れていた。公園、といっても俺たちの居る所は丁度周りからは死角になっている場所で、人目にはつきにくい。
それをいいことにか、でも一番の理由は、―――今、目の前で荒々しく息をしているに、俺の中の何かが切れる音がした。
「な、に…?静雄…」
「襲わせろ」
「ん…ん?え?」
俺の言ってることが分からないというように、戸惑うがまた、俺の理性を擽る。
の止めの言葉も、もう耳には入ってこない。
「、」
「あの、あのね静雄!えーと…ここ、外…だからね?」
「外だから?」
「…えー…その…」
「じゃあ、俺の家ならいいのか?」
「……えっと…」
一歩、一歩と俺から後ずさるの手首を掴み、強引に引き寄せ、そのまま俺の方に倒れこんできたの首筋に噛み付く。
「痛ッ…」
の小さな悲鳴が、さらに俺の理性を崩す。
さっきまで抱きしめるのさえも躊躇っていたのが嘘のように、俺の手は、の体に伸びる。
ベンチの上に押し倒し、同時に胸元のボタンを外すと、の鎖骨と肩が大胆にさらけ出される。
「静雄…」
涙目で俺の方を見つめて名前を呼ぶが愛しすぎて、可愛すぎて、もう一度、キスをする。
「―――んっ」
触れ合ってる唇から、の声が漏れるとほぼ一緒に、カタン、という携帯の落ちる音がした。それはの手から滑り落ちたもので、何故携帯が畳まれていなかったのか、少し前からの指が頻繁に動いていたことに、俺は今更気付く。
「何した…?」
唇を離し、訝しげに携帯を見ながら、質問の答えを求める
「…静雄、が」
「俺が?」
「ダメだよ…こんな、所で」
「だから何かしただろ?」
落ちた携帯を拾い、画面に目を向ける。
映しだされているのは、「メールを送信しました」という一行の文字で、それを見ても、この時の俺はのやった行動の意味が分からなかった。
分からなかったから、内心で舌打ちをし、必要がなくなった携帯は、俺の手から離れて再び音をたてて地面に落ちる。
の抵抗も、俺の力に比べれば弱々しいものでしかない。
スカートから覗く白い足が、俺の視線を捉える。
「あ…っ」
スカートの中に手を入れての太股に触る。
一瞬ビクリとの体が反応し―――自分でもハッキリと分かるくらいに、俺は怪しい笑みを浮かべていた。
このままめちゃくちゃにしてやろう。
考えるのより先に、体が動く。次には、どんな声を出してくれるだろうか。
俺の目に映るのはもはやだけで、だからこそ、この時俺の手首に絡みついた黒い物体に、気がつかなかった。
気付いた時には、遅かった。
確かめるよりも早く、俺の視界は黒一色に包まれた。
どこかで、見たことのある景色。意識が戻ってくると同時に、それは見慣れたものに変わる。
「…ここ」
新羅とセルティのマンション。何故、自分が今ここに居るのかということよりも、俺の脳内には一人の人間が浮かび上がる。
「……?」
俺が寝ていたソファの向かいに、テーブルを挟んでもう一つのソファがあり、そこには普段から顔を合わせてる友人、セルティの姿があった。
『私はじゃない』
PDAを突き出し、俺が読んだのを確認すると、続きを打ち始める。
『静雄、自分がやったこと分かるか…?』
「……はぁ?」
寝起きで頭が回らない。だけど、自分の記憶を辿る限りでは――――必死に思い出そうとするけど、まるでここに来る以前のことだけが抜け落ちたように、何も浮かんでこない。
『』
そんな俺を見てか、セルティが新しく文字を打って見せる。
…?
確か、とは公園で会って、話をして、抱きしめてキスをしたまでは覚えてる。でもその先がどうなったのか、自分とが関わっていて、そして今ここにいるということは、セルティや新羅とも関係があるんだろう。
―――ああ、思い出せねぇ。イライラする
『本当に覚えてないのか?』
少し、呆れた。
という雰囲気をセルティが纏っているということはなんとなく分かった。
首から上があれば、多分セルティは今、本当にその雰囲気の通りの表情をしていることだろうとか考えると、なんだか申し訳ないような気がしてならない。
『いや、私の影の力が強すぎたかも…。でも眠らせるのにはあれくらい…』
その分は俺に見せず、一人でPDAに向き合って首を傾げていた。
「あ、起きたかい?」
俺に一言声をかけて、ドアを閉めると、新羅はセルティの横に腰掛ける。
「で、今は落ち着いた?」
いつも通りの口調で話す新羅に、だからなんのことだよ、と俺が口を出す前にセルティは今しがたの俺との会話の内容を、新羅にPDAを使って説明した。
「――えぇ!?本当に!?」
『あぁ…。もしかしたら私のせいかもしれない』
「でも、セルティは間違ってなかったよ」
『そう思いたいけど、本人が覚えてないとなると一から話すことになる』
「…まいったね。でもセルティのせいじゃないから。これも全部静雄が悪いんだし」
「あぁ?」
『静雄自身思い出せなくてイライラしてるみたいだから、そんなこと言うな』
セルティが新羅の横腹に軽く肘鉄を入れ、俺に向かってPDAを差し出す。
『全部、話すから。聞いてたら思い出すかもしれないぞ』
新羅と、セルティのPDAが交互に俺がここに来るまでの出来事を話しだす。
それを聞いて、俺の脳内にも、ハッキリとあの時のことが浮かび上がる。
―――を抱きしめてキスをしたあと、理性をなくしてその場でを襲ってしまったこと。
―――そんな俺に、が危険を感じて、セルティに助けのメールを送ったこと。
―――セルティが、俺を止めるために影を使い、もしかしたらその時の影の力が強すぎて、俺の記憶を飛ばしてしまったかもしれないこと。
―――眠らせた俺を、セルティがここまで連れてきたこと。
―――それからは、俺が目覚める前に帰ってしまったということ。
話を聞いて、俺の中には、自分への怒りと、セルティと新羅への申し訳なさと、何よりに嫌われてしまったかもしれないという恐怖でいっぱいになった。
俺の力を受け止めて、不安を取り除いてくれたの行動を無駄にした。
今までずっと傍にいてくれたことさえ、遠い昔の出来事のように思える。
隣にがいない。それだけで、人生の崖っぷちに立ったような気がした。
――今なら、あのノミ蟲が目の前に現れても、何一つ物を投げない自信がある。
と一緒に臨也の顔を思い浮かべても、腹が立たないほどに、腹を立てるのも忘れるほどに、俺は絶望という感情に囚われた。
『あ、そうだこれ…』
呆然とする俺の前に、PDAを向けながら、セルティが影の中から一枚の紙を取り出す。四つ折りに畳まれたそれに、「静雄へ」と書かれているのを見て、やっぱり考えるより先に、体が動いた。
セルティが俺の行動を見て、這わせていた指を止め、新羅と共に部屋を出る。
その際に、『あとは静雄とのことだから。――――大丈夫だ、きっと』という文字を打ったPDAをセルティが俺に見せていたけど、目の前の紙に気をとられて、まともに読み取れなかった。でも、二人が気をつかってくれたというのは確かだろう。
セルティと新羅に感謝しながら、「嫌い」や「別れよう」という言葉を綴られているのを覚悟して、紙を開いた。
「静雄へ
最初に言うけど、静雄のこと嫌いになんかなってないからね。
あの時はびっくりして私もセルティにメール送っちゃったぐらいだけど…嫌じゃなかったよ。
ただ、場所は考えてね。…ああいうのは二人だけで楽しみたいでしょ?
これ読んだらメール下さい
」
読み終わると同時に、恥ずかしさと安堵が一気に押し寄せてきて、力が抜けてソファに座り込むと、すぐに携帯を取り出す。
宛ては勿論で、新規メールに、手紙を読んだことと、自分の行動に関しての反省と、最後に"今度は覚悟しとけよ"と打つと、送信ボタンを押した。
数分後、から一行だけのメールが届く。
短くとも、俺を受け入れてくれたことを証明するその一言は、俺との恋人同士としての新しい一歩となった。
盲目の果てに
"優しくしてよね"