「トムさん…大丈夫っすか?」
「あ、ああ。今日は全部俺の奢りだ」
「感謝の意を述べます。ありがとうございます」
「ありがとう!」
バーテンダーサングラスの青年、金髪白人の女性、ドレッドヘアの男、10歳前後の少女――――それぞれ静雄、ヴァローナ、トム、茜はファミリーレストランから出たところだった。土曜日で休日のこの日は、学校も休みなせいか町中には、店で昼を済ます若者達も多くみられる。いつものように取り立ての仕事をしていた静雄、トム、ヴァローナは、昼食を取るために近くのファミレスに寄ったのだが、その途中で茜に会い、4人で店に赴いたのだ。
自分の意思で支払いを受け持ったトムは、財布の中身を確認して溜息を吐くがすぐにしまうと、残りの休憩時間をどう過ごすかを考える。仮にも仕事中なので勝手なことはできない。――――公園に行こうか。
と、いっても遊ぶというわけではない。自販機で飲み物を買って、のんびり会話を交わすぐらいだ。時間つぶしには丁度よいということで、過去にも何度かそうしてきた。他に思い当たることもなかったので、とりあえずこの案を出して公園に向かった。
「茜はなに飲むんだ?」
「えーと、オレンジジュース!」
「ん」
茜を抱きかかえながら自販機の前に立つ静雄をぼーと眺め、缶コーヒーを片手にコンクリートの上に腰を下ろすトムに続き、ヴァローナも隣に座る。無色透明の水を選んだヴァローナは、偶にそれを喉に通し、自分から話を振らずに聞かれたことに対しては、独自の硬い日本語で対応した。
「ヴァローナの嬢ちゃんよぉ、この仕事は慣れたか?」
「今だ完全にとはいきませんが、少々」
「そうかい」
淡々と答えるヴァローナに苦笑しつつ―――そこで静雄と茜が戻ってくる。
同じくトムたちの横に並んで座った静雄と茜は、飲み物を口にしながら会話をし始める。
色々と特徴のありすぎる一行も目立たないくらいに辺りは騒がしく、子連れの母親の集団がいたり、話し込む少年少女がいたりと、広い公園内には結構な人の数があり、4人もその一部でしかないため注目はされていない。
そんな不特定多数の人々の中で、トムが、まだ高校生とも見れる外見をした一人の女性を指さして、静雄に声をかける。
「静雄、」
「はい?」
「ほらあれ、……あの子可愛くないか?」
言われてトムの指先を辿ると―――見慣れた人の姿が。
静雄達と同じように飲み物を飲みながら、その女性はベンチに座って、こちらに気付かず携帯を弄っている。
「あ…」
顔も判別できる距離には、確かに普段見ている人物がいた。固まったまま女性を見続ける静雄の横でトムは、
「じゃ、ちょっと行ってくるか」
と言い残すと、女性の方へ歩き出す。
「トムさん!」
「静雄お兄ちゃん?」
間を置いて声を上げた静雄だが、既に女性の傍に行っていたトムには聞こえず、代わりに隣にいる茜が反応した。
「どうも」
「…あ、…はい…?」
「一人ですか?お綺麗ですね」
「はぁ……」
以前ヴァローナと初めて会った時も、ロシア語で「魅力的ですね」と言い寄ったトムは、こう見えて案外――――いや、見た目的にはその通り、女の人にも声をかける方だ。
一方で見知らないチンピラ風の男に話しかけられた女性―――は、ナンパの類だろうと少し警戒心を強くした。
「トムさん!」
トムがさらに言葉を紡ごうとしたところで静雄が横に入り、は、突然の静雄の登場と「トムさん」と呼ばれたチンピラ風の男のことに理解できずに、状況を飲み込めず目を見開く。
「静雄、どうした?」
「どうした、じゃなくてですね…」
「あ…もしかしてお前も狙ってたのか?」
小声で言ってくるトムに、「ちょっと待って下さい」と、掌を向けると、に歩み寄る。
「、」
「…え、静雄……なんで?……えと、この人と知り合いなの…?」
「あー……まぁ、上司ってところだな」
「え!?」
分かりやすく驚くに、簡単にトムのことを説明すると、続いてトムにものことを話し、なかなか戻ってこない静雄達に、ヴァローナと茜もやってきた。
「そうだったのか…」
「ええ」
「いや、本当に!本当に悪かった!ごめん!」
「別にもういいですよ」
「私も気にしてませんし…」
「…でも人の恋人を口説こうとしてたわけだから…なんていうか、もっと怒ってくれていいんだぞ」
「もういいですって」
謝り続ける上司に、静雄とは内心複雑になりながら、その近くではヴァローナと茜が、に怪訝そうな視線を向けていた。
「あの、トムさん」
「あ、はい」
「静雄が、いつもお世話になっています」
深々と礼をするは、片手を静雄の頭に置き、彼にもお辞儀をさせている。さすが静雄の彼女といったところだ、とトムが感心していると、ヴァローナが知らせるように口を開いた。
「現在12時55分、そろそろ仕事の再開。肯定して下さい」
ヴァローナの機械を彷彿とさせる口調の言葉に、トムは、はっとして腕時計に目を移す。
「…もうこんな時間になってたのか…。…静雄も、ちゃんと別れるのは寂しいと思うが、行くか」
「はい」
「静雄、あんまり人殴りすぎないでね」
「…ああ」
「静雄お兄ちゃん!頑張ってね!」
「ありがとな」
笑顔を向けて茜の頭を撫でる静雄に、茜が抱きつき、は少し眉間に皺を寄せると寂しそうな表情をする。それに気付いた静雄は茜から離れると、の顔を覗きこみ、軽く口角を吊り上げる。
「ちょ、静雄」
「もしかして……妬いてくれてたのか?」
「え…その、」
「なら、には―――――」
グイ、との顎を持ち上げると、「可愛いな」と耳元で囁いて、唇を重ねる。
取立てに向かおうとしていたトムたちの足は止まり、目の前で人目も気にせず、角度を変えて何度もキスをする部下たちに、トムは赤くなりながら、視線を宙に彷徨わせるしかなかった。
昼間の恋人タイム
「静雄、トムさんたちの目の前…」
「だからだよ」
「え?、」
「これが俺の愛する女だって見せつけてやったんだよ」
「…………ばか」
「マジで可愛い。喰いたい」
「ッ!…ここではダメ!」
「あのー………お二人さん?……」