7月7日。
彦星と織姫の再会を祝うと同時に、短冊に願い込め、己の祈りを託す日。


7月に入り、本格的な梅雨日和が続いたが、天もこの日ばかりは空気を読んだのか。日中は真夏に近い気温に襲われ、太陽も強く照り付けていた分、夜は丁度いいくらいの冷たい風が吹く涼しい時間となった。

いつもは一人で広々と使ってる一軒家。だが今日は、賑やかな話し声が室内に広がっていた。



「たくさん星でてるよ!ベガとアルタイルどこかなー」
「……>(きれい)……」


都会だと星もほとんど見えないことが多いが、今日は一際目立って夜空にその身を輝かせていた。明かりが少ない田舎などでは、もっと鮮明に見えるのだろう。


「七夕……!それは愛し合う織姫と彦星が年に一度逢うことを許された日!言いかえれば愛し合える日さ……!こんな夜は俺もセルティと愛の時間を過……」
『なぁ新羅、彦星と織姫はどの星なんだ?』
「…………聞いてなかったんだねセルティ」
『え、何が?……もしかして説明してくれてたのか!?悪い、もう一回頼む!』
「……うんいいよ。…まず、彦星っていうのはわし座α星、1等星のアルタイルで……」


星を必死で探す九瑠璃と舞流、そしてセルティと新羅の他にも、ほぼ全員が窓際に集まって星を眺めている。誰もが七夕の話題で口を動かす中、テーブルに向かって七夕の準備をするたちも、同じく今日の行事の話で盛り上がっていた。


「こんなに大人数で七夕っていうイベントをするのも始めてだよ。なんか新鮮だなぁ」
「それ以外は毎年俺と過ごしてるもんね、は」
「過ごしてません」
「妄想は一人でしとけノミ蟲」


会話の調子はいつもと変わらず。
折り紙を材料として、ハサミや糊を使いながら飾りを作っていく。、臨也、静雄、狩沢、遊馬崎、門田、渡草、幽の8人で作業しているので、出来上がるスピードもそれなりに速い。黙って真剣に取り組んでいる幽が、何より一番進んでいる。


「……なんかこれアイドルにさせる仕事じゃないよね…」
「俺はこういう地味な手作業は好きな方だよ」
「それならいいけど…」


器用な幽は、静雄の隣に座り、不器用な彼に時々手を貸しながら兄弟で協力して制作中だ。狩沢と遊馬崎はというと、本題からずれてアニメのキャラクターを折っている。二人とも手先が細かいためか、複雑なものさえも苦戦せずにできてしまう。


「ねえゆまっち、今度はなに作る?」
「個個のパーツを作って合作しましょう!」
「お前ら真面目にやれ、真面目に」
「ま、飾りモンになればそれでいいんじゃね?」


凝りすぎて他のものとは浮いている狩沢たちの作品を尻目に、門田と渡草は自分たちが担当する分を作る。
そんな風にたちが手を動かしている間も、それぞれの方向からそれぞれの喋り声が聞こえていた。



「小学校でも今日七夕祭りがあったよ」
「あー…やっぱりこの時期はどこもそうか。……ヴァローナの嬢ちゃんはこういうの初めてか?」
「肯定します。ですが、以前から七夕という行事については耳にしていました。私の中の記憶が正しければ、庭に竹を立て、五色の短冊に歌や文字を書いて枝葉に飾り、裁縫や字の上達をなどを祈る。奈良時代に中国から乞巧奠の習俗が由来し、古来の「たなばたつめ」の伝説と結びついて宮中で行われたのが始まり。近世では民間にも普及。今の文化になった、と。」


辞書や本に載っていそうな説明を、まるで機会のように淡々と口にするヴァローナ。「相変わらず博識だ……」と、トムは多方な知識を持ったヴァローナに、尊敬するばかりだった。




「杏里は願いごと決めた?」
「いや……まだはっきりとは……」
「私はもう決めちゃったもんねー!ね、誠二!」
「…そうなのか?」
「やっぱさ、ラブラブな二人だから、ここは「永遠の愛」とか願っちゃう感じ?」
「紀田君いい線いってるよ!」
「もー…正臣」


来良に通う学生5人は固まって、主に美香の惚気話に振り回されて会話をしていた。

しばらくわいわいと続いていた活気ある空間。「完成!」というの声でそれは途切れ、輪っかつづりや一枚星、十字吹流しに提灯を飾って華のある形になった笹を手に、星の踊る夜空の下へと、足を進ませて行った。




***





外に出てみると、やはり他の家にも短冊をつけた笹があり、多く目につく。
こんなに大勢で七夕を祭るというのも珍しい話かもしれないが、皆快く集まってくれたお陰で、今年の家は豪華な笹が飾れそうだ。


天に居る彦星と織姫が、無事再会できていることを願って。
短冊に、皆が思い思いの願いを書き綴っていく。






『願い事かあ……何を書けばいいんだろう』
「自分の望んでることだよ。深く考えず素直に書けばいいと思うよ。僕はもちろん、セルティへの愛さ!」
『よし、今書くことが決まった』


「幽平さんはなに書くの!?教えて教えて!」
「……>(しりたいです)……」
「そうだね……。やっぱりこれからも何事もなく普通に過ごせたらいいなって」
「……>(いいですね)……」


「願い、とは己の願望であり、ここに記しても必ず実現するとは限らないもの、ですよね?」
「確かに、おまじないみたいなもんだな」
「でも、織姫様たちはぜったいみてくれてるよ!」


「いざ書けって言われても、案外パッと思いつかねぇもんだな……」
「そうか?俺はとっくに決めてたからもう書いたぞ」
「彦星×織姫って響きからしてロマンチックだよねー」
「夫婦だけど年に一度しか逢えないってことは……リア充の分類に入るんすかね?そこが曖昧っす」


「誠二誠二ッ!私の願いごと見る?」
「もう書けたのか」
「うん!もうずっっと前から考えてたから!」
「……まぁ、美香らしいな」


「「成績が上がりますように」とか、「もっと勉強ができるようになりますように」とか、そんなありきたりなこと書いてもおもしろくないぜ!帝人も杏里も!パーッと自分の欲望を書き出せばいいんだよ!」
「正臣は広く考えすぎなんだよ……また無茶なことかいてるし」
「でも、紀田君みたいに大きな夢を持ってるって、ある意味すごいですよね」
「うん、ある意味ね……」


「分かってるよ。は俺と結婚したいって書くんでしょ」
「書かない書かない。間違っても書かない」
「……なぁ、短冊にうざい奴の暴言書くのってありか?」
「気持ちはわかるけどここは我慢しよう静雄」
もシズちゃんも酷いよねえ。でも俺がを愛してることに変わりはないから、これだけは覚えといて」
「黙れ口閉じろ」
「―――私はそんな臨也と静雄のやりとり、案外好きだったりするけどね」



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「セルティ愛  岸谷新羅」

「新羅の変態が治りますように  セルティ・ストゥルルソン」


「変わらない日々  平和島幽」

「たくさんの女の子たちとイチャイチャしたい  折原舞流」

「性  折原九瑠璃」


「毎日がたのしくすごせますように  粟楠茜」

「強く  ヴァローナ」

「いつも通り  田中トム」


「本に埋もれたい!  狩沢絵理華」

「二次元に逝きたい!  遊馬崎ウォーカー」

「ルリちゃんと握手したい!  渡草三朗」

「平穏な日常をくれ  門田京平」


「誠二とずーっとずーっと一緒にいられますように  張間美香」

「探し物が見つかりますように  矢霧誠二」


「世界中の可愛い女の子のヒモになる!  紀田正臣様」

「友達とずっと仲良くやっていけますように  竜ヶ峰帝人」

「皆さんが笑顔でいられますように  園原杏里」


愛してる  折原臨也」

「静かな日々  平和島静雄」

「この日常がこれから先も続きますように  




に導かれる