『クーラーは夏の神様だ』
「お供に扇風機があれば完璧」
帰ってくるなりクーラーのついた部屋に直行したセルティと、なぜか一緒にいるを見て、出迎えをスルーされた新羅はちょっとした虚しさと疑問に包まれる。
「セルティせめてただいまの一言くらいは言おうよ……。あとなんでがいるの」
クーラーの前で涼みだす二人に、質問の答えを求める。
仕事に向かったはずのセルティがを連れて家に帰ってきた理由が分からない。そもそも今回の仕事はは絡んでないはずだ。
『帰りにたまたまに会ってな、暑い中外で立ち話もなんだから家に来てもらったんだよ』
「……セルティがいいならいいけど……」
「新羅アイスオーレちょうだい。割合はコーヒー6牛乳4で」
「……はいはい」
一応とは高校時代から友好関係を持っている間柄なので、人の家での態度が大きいというのに対しては気にしないことにする。新羅が冷蔵庫からコーヒーと牛乳を取り出してる間、とセルティはくつろぎながら、この季節、夏を主題に会話を始めていた。
『セミの鳴き声を聞いたり、祭りや花火大会の告知ポスターを見たら、夏がきた!って感じがするよな』
「あーわかるわかる!こたつとかストーブを扇風機に入れ替える時も、もう夏だなぁって思うし」
『…共感できてしまう私は時々自分が欧米人だっていうことを忘れる』
「セルティもう日本人じゃん」
楽しく談笑するとセルティを見ていると、新羅の中では様々な思いが交錯する。セルティが日本に来てから、一緒に暮らすようになってから、今年で何度目の夏を迎えたのだろう。完全に日本での生活が身に沁みてしまったセルティは、欧米人の雰囲気を無くしつつある。「人」という前に妖精という非現実的な存在だが、全てをひっくるめてセルティは日本人より日本人らしい日本人になっているのかもしれない。"首"だけに執着していた頃とは違う、大事なものがたくさんできたと語った時のセルティは、とても輝いてみえた。
「それこそ夏の海より綺麗に、ね」
思えばセルティの初めての女友達はだった。あの時のセルティの"嬉しそうな顔"は、今でも鮮明に記憶に残っている。セルティを快く受け入れてくれたには感謝してもしきれない。
いつもながらセルティのことを考えだすとキリがないので、自分で区切りをつけて、から注文されたアイスオーレを手にセルティたちの元に向かう。
「はい、コーヒー6牛乳4」
「ありがと新羅」
新羅からグラスを受け取ったは、ストローで冷えたコーヒーを吸い、喉を潤す。
「そうだ、新羅って「夏」っていえば何を思い出す?」
一旦グラスをテーブルに置いてそう問い掛けてきたは、どうやらさっきまでセルティとその話題で盛り上がっていたらしい。とセルティの正面に腰を下ろした新羅は、数秒間目を泳がせてから口を動かした。
「スイカとか浴衣とか風鈴とか海とか……」
『代表的な夏だな。私は祭りとか肝試しが真っ先に浮かんだ』
「そっかあ」
―――なんだ、案外普通……
が予想していた回答と違ったことを意外に思っていたのも、つかの間のこと。
「―――っていうのは日本の夏で、この頃薄着になってるセルティの白い肌を見るのが僕の夏だね!」
新羅はやっぱり新羅でした。
『はあ!?なんだそれ!』
「いや、安心したよ私は」