夏真っ盛り。クーラーもついてない炎天下の車の中に居るのは耐えられたものではない。
「クーラーつけましょうよ渡草さん」
「ダメだ。つけたらまたお前ら車ん中引きこもるだろ、外に居ろ外に」
「けちー」
「ケチで結構」
現に、こうして野外でアイス片手に日陰で過ごしてる今だって十分暑いのだ。何度も渡草に抗議をしていた狩沢と遊馬崎も、中々折れない渡草に降参したのか、諦めてそれ以上は口にしなかった。車がダメなら冷房のきいた店の中、とも考えたが買い物もないのに入るのはなんだか気が引けた。暑さでアイスもあっという間に溶けていく。
「門田さんもう一本アイス買ってください」
「私もー」
「自分で買えそれくらい」
「私が奢ろうか?」
子供のような態度をみせる狩沢たちを門田が適当にあしらい、落胆する二人にが話を持ち上げる。
「いいの!?」
「私も食べたいから」
「ありがとうございます!」
軽い足取りでアイス売り場に向かった三人を見て、既に食べ終わったアイスの棒を噛みながら、渡草が門田を気だるそうな声で呼ぶ。
「門田ー」
「なんだ」
「ちゃんって可愛いな」
予想外の渡草の発言に呆気に取られ、門田は言い返す言葉が思い浮かばず、完全に動きが止まってしまう。もしかして暑さで頭が沸いてしまったのか。けしての容姿を悪く言っているわけではない。渡草が崇拝しているルリ以外の女の子を褒めるということは滅多にないので、門田が驚きと、もの珍しさが混じった反応をするのは当たり前のことだった。
「お前もあんな子がいて高校時代は華のある日々を送ってたんだろ。恋仲とかじゃないのか?」
「の近くには臨也と静雄がいることを忘れるな」
いきなり学生時代のことを口にした渡草は門田を嫉妬のこもった目で見る。なんでも、急に高校だった頃のことを言い出した理由は、彼自身が思い浮かべる「夏」の一つというのが青春だかららしい。
「ま、どんな可愛い子でもルリちゃんには敵わないけどな」
最後の一言でいつもの渡草が戻ってきたことに一安心した丁度その時、たちがアイスを持って帰ってくる。喜色満面でアイスを頬張る狩沢と遊馬崎の顔はとても幸せそうだ。
「悪いな、こいつらが……」
「いいよいいよ。それより京平と渡草さんはさ、「夏」でなにか思い浮かべることってない?」
「そうそう!実は3人でその話をずっとしてて」
「門田さんと渡草さんも教えて下さいよ!」
すっかり常時のテンションが復活した二人に押され、門田はなんとなく頭をよぎったものをそのまま挙げた。
「花火とか海とか屋台とか……だな。渡草は?」
「今週発売されるルリちゃんの夏の新曲、と青い春」
「……お前らは?」
渡草のマニアックな答えを流して質問返しをする。人々が思う「夏」は様々であり、定番のものから個人的なものまで十人十色であろう。そしてこの二人、狩沢と遊馬崎も個性的といえば個性的な夏をもっていた。
「AIRっすね……!」
「夏コミだねー」
本人たちは王道というが、当たり前にたちには分かるはずもなかった。
思い描く夏は人の数だけ
「はどうなんだ?」
「京平に同じく」