「帝人君って好きな人いる?」
「えっ!?」


唐突なの問いに、考えるよりも先に反射的に声が出てしまった。動揺を隠せず目線をあちこちに泳がせる帝人を見て、の口元からは思わず笑みが漏れる。


「その様子じゃいるみたいだね」
「あっ…え……そのー……」


初々しいなぁ、と青春真っ盛りの年齢の帝人を見守るように眺めつつ、話の続きを促す。


「どんな子なの?先輩?後輩?同学年……同じクラスの子、とか?」
「……はい、同じクラスの人です」
「ほほう、同級生ときたか」


顎に手をあて、年上としての余裕を持った態度で接するだが、しかし次には立場が逆転する。


さんはどうなんですか?」
「へ?」
「今もそうですけど、高校時代とか好きな男性はいなかったんですか?」
「え、えーと……それは……」
「ぜひ聞かせてください!」
「い……いないよ!?いないいない!」


帝人からの質問返しに先程までの余裕はすっかり消え、見事に数十秒前の帝人と同じ反応をしめす。挙動不審とまではいかないが、丁度学生たちの下校する時刻とあってか周りは来良の制服を身につけた生徒たちがたくさんおり、私服で学生ではない上に慌てた動きをするはそばを通る学生から度々一瞥を投げられていた。理由は他にも、一部では5、6人の男子生徒が一ヶ所に集まり―――『あの人スゲー美人じゃね?』『霧が峰のお姉さん?』『いや、もしかしたら恋人ってことも……』『アイツがあんな綺麗な人おとせるわけねーだろ。それに霧が峰って好きな奴いるんじゃなかったっけ』『お前らあの女の人が誰だか知らねーのかよ……』『は?』『どうしよう俺、話しかけてみよっかな』『今は取り込み中みたいだし今度にしようぜ、霧が峰に聞けば名前くらい分かんだろ』―――――というやり取りをしていたことも、と帝人は知るはずもなかった。



「本当にいないんですか?」
「いない!……と思う、多分」
「答えが曖昧になってきてますよ」


ここまであからさまな素振りを見せられると、答えは訊くまでもなく分かってしまう。必死に否定を繰り返しているのが何よりの証拠だ。質問攻めにして話を聞きたいところを、ぐっと帝人は我慢する。ここが人通りの多い場所でなければ周りの目を気にせずに会話することができるのに。



「みっかどー!遅れてゴメンなー……って、あり?さん?」


杏里を引き連れて元気な声を発しながら現れた正臣は、帝人の隣にいるの存在に気づき、頭上に「?」を浮かべる。


「あ。正臣君、杏里ちゃん、久しぶり。私がここを通りかかった時に帝人君が声をかけてくれて、それでね。」
「お久しぶりです。さん」
「そうだったんですか。お久しぶりっす。かれこれ3週間ぶりくらいっすかね?この21日間俺はさん不足で何度飢え死にしかけたことか……!」
さん、僕たちこれから下校するんですがもしよかったら途中まで一緒にどうですか?」


遠慮なく正臣の軽口を無視してを誘う帝人に、案の定正臣が不服そうに声を出した。


「おい帝人。お前いつから俺を差し置いてさんをさりげなく誘うようになったんだよ!……ハッ……そうか。前に俺が教えたナンパ術を早くも活用してるのか」
「ち が う か ら !」


すかさず帝人の突っ込みが入り、どこか漫才のような光景ができあがる。台本も打ち合わせもなしで毎回的確に突っ込める帝人も、またそれに対して上手く返せる正臣も、お互いだからこそできるやり取りだろう。


「杏里ちゃんの周りはいつもにぎやかだね」
「ええ、毎日あんな感じで」
「なんか、懐かしいなあ」


「来神」から「来良」へと名が変わっても昔の面影を残している学校と、5.6年前までは自分も着ていた制服。わき上がってくる懐かしさの中に切なさが混ざった説明の難しい感情を抱えつつ、は杏里に一つの言葉をかける。




「杏里ちゃんはさ。恋、してる?」




青色恋愛模様


「なになに?二人でなんの話してるのー?」
「君たちの年齢にドストライクな青春の恋の話よ」
「だ、男子禁制です……」
(女の子ってホント恋バナ好きだよなぁ……)