ー 一緒に帰ろー」

一日の授業が終わり、生徒達がそれぞれの帰路につく頃。真っ直ぐ家に帰るか寄り道して帰るかは人によって様々で、ほとんどの者が友達と共に学校をあとにする。まだたくさんの生徒が教室や廊下に残ってることもあってか、大きく手を振りながらを呼ぶ新羅は注目されている。

「あ、新羅ーどうしたの」
「あのさ、よかったら今から僕の家に来ない?」
「え?」
「実はさちょっとに会わせたい人がいてね。毎日臨也や静雄と絡んでるなら大丈夫かなって思って」
「大丈夫……って?なんか危険な感じの人なの?その人」
「ああごめんごめん。変な言い方しちゃったね。なんていうかまぁ来て見れば解るよ。どう、時間ある?」
「うんあるよ。今日は特に予定も入ってないし」
「そっか!よかったー」

安心した表情を全面に出す新羅は、携帯を弄って短くメール文を打ったあと、の腕を掴んで教室を出る。今にもスキップし出しそうなほど上機嫌な新羅の後ろで、引っぱられているは彼に歩調を合わせようと横に並ぶ。それでも早足な新羅には合わせづらく、どうも歩幅が安定しない。




「新羅なにしてんの」

途中まで階段を下りた所ですれ違いざまに話しかけてきたのは、臨也。そのお陰で新羅が反応して足を止め、急に停止したものだからは若干前のめりになる。

「臨也、悪いけど今日は俺がを借りるからさ。帰る相手なら他に探してよ」
「なんでまた」
「今回はをセルティに会わせようと思ってね。そういうことだから、じゃね」
「バイバイ臨也ー」

はまたも新羅に腕を引かれながら臨也の横を通り過ぎて一階へと消えて行く。そんな二人を目で追う臨也は、今頃階段を下り切ったであろう新羅に対して普段はあまり出さない声量で、別れの挨拶代わりに言い放つ。

「新羅ー、に怪我させないでよー」

届くか届かないか微妙な距離からの言葉だったが、すぐに「分かってるよー」と返事がきたので、臨也はと新羅とは反対に上を目指して教室へと駆け上がった。





***





「その人ってどんな人?」

やっと腕は解放され、校門をくぐると同時にまず1つ目の質問を新羅に投げかける。"その人"とは、先程新羅がに会わせたいと言っていた人であり、これから顔を合わせる人物のことだ。

「うわー難しい質問だねー…。セルティの魅力は星の数ほどあるから1つ1つ挙げていくのは時間がかかるなぁ」
「大体でいいんだよ。見た目とか、パっと見た印象」
「見た目かい?そりゃ容姿端麗で「美人」という言葉に限るねぇ」
「えぇ、そんな綺麗な人なの!?」

驚いて新羅の顔を見るに、新羅は胸を張って「もちろん!」と答える。
自身満々なその姿を見て、はその人物に対して少し考え込む。

―――そういえば……。

"セルティ"という名前は今まで何度か耳にしていた。普段からも新羅が"セルティ"のことについて語ることはあったし、彼がこれほどまでに褒めて「美人」と言うようならば、恐らくは女性だろう。そして何より名前の響きから、日本人ではなく外国人だとは予想している。"セルティ"というのがニックネームかなにかだとしたら日本人なのかもしれないが。
実際会ったことがないのでハッキリと確認はできていない。


「でもなんで私に会わせたいの?」
「んー……着いてから話していいかな。その方が納得いくだろうし。」
「? そう」


―――着いてから?…ってことは会ってからってことだよね……。やっぱり何か特別な理由でもあるのかなぁ


首を傾げるの横で新羅はずっと機嫌が良さそうに顔を綻ばせている。何がそんなに嬉しいのかには解らなかったが、新羅は確かに喜びを噛み締めていた。



それは―――――セルティにも女友達ができるということ。
首が無いセルティにとって女友達というのは存在していなく、新羅以外に深い関係をもった人間はいない。人外、妖精といえどセルティも一人の女の子だ。デュラハンとしてアイルランドに居た頃は人との関わりなどなかったが、日本に来て人間達と同じ所に住むうちに、セルティも人並みの感情や意思をもつようになった。セルティにも友人と呼べる人が必要なのではないか。今日、こうしてに話を持ちかけたのは、新羅の中にセルティを思うそんな気持ちがあったからだ。

セルティにのことを話すと、是非とも会って見たいと彼女はいつも言っていた。

それが今日、叶う。



ならきっとセルティを受け入れてくれるはず。
心のどこからか沸いてくる確かな確信を胸に、新羅はと打ち解けた時のセルティの嬉しそうな表情>(・・・・・・・)を想像して、一段と深い笑みを己の顔に刻んだ。




二人が出会うまで、あと―――