「セルティ……泣いてるの?」
新羅が真剣な顔でそう言い、セルティは一瞬動きを止めるも、
『……ああ、そうかもしれないな』
否定することもなく、文字を打った。
「え……セルティさん?」
『ごめんちゃん。私には顔が無いはずなのに変に思われちゃったな。おい新羅、訳の解らないことは言うな』
「でもセルティも肯定してたよね。僕はセルティの微妙な動作と影の動きでセルティのことがなんでも分かっちゃうんだよ!」
『言い直したつもりか』
ヘルメットを傾けて溜息を吐いたような仕草をしてみせ、「僕はセルティと一緒に長い時間を共にしてきたからね!」と、語り出す新羅を無視して、セルティはにPDAの画面を向けた。
『……ちゃん、今からヘルメットを取ってもいいか?』
セルティにとっては運命の分かれ道とも言える内容を打ち込んで。
セルティとPDAを通して会話をしてきた人も、ヘルメットを取ったセルティを見れば誰でも慄き、逃げていった。聞くのと実際見るのではわけが違うのだ。
「大丈夫です」
『…悲鳴はあげない自信、ある?』
「悲鳴なんてあげません。素のセルティさんを見せてください」
「素のセルティ!?…なんか今僕の頭の中では、影を脱いで綺麗な肌を大胆に露出するセルティが……」
『黙れ変態』
「うわー……学校とはまた違った変態ぶりが…」
一人セルティ語りから帰ってきた新羅は、の声を聞いて妄想したことをそのまま口に出す。直ぐにセルティの鋭いつっこみが入り、からはひかれる。それでもセルティ大好きオーラを全面に出し続ける新羅は、にこにこしながら自分が原因で逸れた話を戻す。
「セルティ大丈夫だよ!なら…ほら、ちょっと普通の人とは違う考えを持ってるみたいだから。…………これ褒めてるよ」
「あ、そうなの?」
『……じゃあ、いいかな?』
「…はい」
PDAを置き、が頷いたのを確認すると、そっと、ヘルメットを首からとる。
影。
ヘルメットの中から露になったのは、それだけだった。
影そのものが宙を漂い、セルティの首の周りで渦巻いている。まるで首から上など最初からなかったかのように断面は整っており、白い肌と真っ黒の影がコントラストを際立たせた。
その光景を目に焼き付けたは、一度瞳を閉じてから静かに開ける。
「…すごいなぁ……」
「君のその反応の方が僕はすごいと思う」
感心して声を上げるに、新羅は更に、「ほど落ち着いてる人は初めてだよ」と付け足す。セルティはヘルメットをテーブルの上に置いて、首を晒したままPDAを手に取り、文字を打つ。
『私も初めてだ。ちゃんみたいな子は』
「え…すみません……」
『そんな、全然謝ることじゃないよ。……ありがとう、受け止めてくれて』
「いえ、こちらこそ」
『これからはさ、気軽に「セルティ」って呼んで。私も「」って呼んでいいかな?……女の子の友達なんて初めてだからよくわかんないんだけど、私でいいなら…』
「…!勿論です!……これから宜しくね、セルティ!」
『ああ、宜しく!―――』
調和する
その時、確かにセルティは笑っていたんだ。
・岸谷新羅の日記より抜粋
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セルティが今日、泣いてた。でもそれは悲しみとか苦しみとかじゃなくて、正反対の喜びという感情からだ。
セルティには顔がないけれどちゃんと表情はあるんだ。ま、それが分かるのも10年以上の付き合いがある僕だけだろうけどね。
でもセルティもさっそくと打ち解けちゃったみたいだし、これからの方ばっかり向いたりしたらどうしよう。が女の子といえど嫉妬はするね。今までずっと僕だけの傍に居たセルティがさ。
…でも、セルティにとってもにとっても今回はお互いに同性の友達をつくるといういい機会になったんだ。セルティの嬉しそうな顔が見れただけでいいや。
……。
…………まてよ。
セルティとがすごく仲良くなって常に一緒に居るようになるかもしれない…。今まで女の子が周りにいなかった分、セルティにもにも女の子同士の時間を楽しんでほしいっていう気持ちはあるけど、セルティが全然僕に構ってくれなくなったら……!?
……いや、それはないよね。そう信じたい
セルティー!僕はずっっっと君だけのことをみてるから安心してね!
だからもしセルティがレズの道に走ったとしても僕は君のことしかみないし、僕がセルティを絶対振り向かせるから覚悟し〜〜〜〜〜〜〜―――――――――――
(刹那、漆黒の影が新羅の腕に絡まる)
(以下、新羅の文章は途切れ筆跡の違う文字が数行)
誰がレズだ誰が。変なことを考えるんじゃない。私にそんな趣味はないし、何よりを巻き込むな。
お前のそういう変態なところが校内でも知れ渡ってると思うとこっちが情けなくなってくる。
……まぁ、今日はなんだ。
……ありがとうな。
……今日はだぞ。今日は。