キーンコーンカーンコーン、というもう何度聞いたか分からないお馴染みの予鈴が、校内に授業の終了を知らせた。お待ちかねの昼食タイムとなり、教室内はざわつき始める。仲の良い友達同士で固まって弁当を食べるのは、ごく一般な光景であり、所謂"グループ"内で、それぞれの会話が聞こえる。本来ならも、女子の集団の中に入って談笑しているはずなのだが―――――弁当を掴んで教室を出ると、屋上へと駆け上がった。

毎日上る階段の先には、頑丈そうなドアが立ちはだかる。ギィ…と音を立てて開ければ、静かなはずの屋上では、二人の少年が喧嘩の真っ最中だった。清々しいほど晴天な青空の下で行われてる争いは実に不似合いだ。それも、平和島静雄と折原臨也となれば、喧嘩に青春の色を見せない。机諸々学校の物が壊れたり、常にナイフを装備しているというのは普通だろうか。そう問い掛けたくなる程、平凡から遠ざかった二人の戦いは、傍観してて収まるわけがなく、いつものようにが声をかける。


「臨也、静雄、お弁当持ってきたよー」

ピタリ。今まさに、激しく動き回っていた二人の体は止まり、表すならその擬音が一番しっくりくるだろう。そして足早にの元へ向かうと、弁当を受け取る。

「やった、の手作り」
「要望に答えたんだから感謝しなさいね」
「ありがと」
「おう、サンキュ」

臨也と静雄の間に入り、を真ん中にフェンスに凭れながら、三人で並んで弁当をつつく。玉子焼き、ウインナー、ハンバーグなど、突出した特徴もないメニューだが、色取りがよくバランスも考えられているそれは、味も確かで。


「この玉子焼きが特に旨いな」
「え、ハンバーグでしょ」
「玉子焼きだろ」
「一番はハンバーグだろ」

を挟んで、お互い目を合わさず黙々と箸を進めながら言い合いをする臨也と静雄を見て、がくすくすと笑い出す。

「あ?」
「何?」
「いや、二人とも案外仲良いんだなって」

瞬間、静雄の近くのフェンスがぐにゃりと曲がるが、それ以上に発展することはなく、楽しそうに笑うの隣で臨也は心底嫌そうに溜息を吐いた。
もしこの発言を以外の人間が、二人の前で口にしていたらどうなっただろう。恐らくは現在、意識を飛ばして気絶していると思われるが、その前にこんな危険な言葉はまず吐かない。親しい付き合いの上、惚れた弱みもあるのか、手を出せない――否、出さない二人は、表情を崩して不機嫌さを顔に露にさせる。



たち三人しかいないこの屋上は、今頃話し声が行き交う五月蝿い教室とは反対に、ガランとしていて、だからこそ落ち着ける場所だ。偶に新羅や門田も来て、五人で昼食を取ることもあれば、殆どは三人でこの時間を過ごす。
一年生の1学期くらいまでは、も普通に女友達と教室で机を囲んで食べていたが、臨也、静雄、おまけに新羅と関わりを持って以降は屋上がお弁当スポットだ。避けられて居心地が悪い教室より、今となっては断然此処が気の休まる所。


「ねぇ、明日も作ってよ」
「一人一回500円で引き受けます」
「なんだ安いな、じゃあ明日も頼む」
「はい、俺もね」

ごちそうさまでした、と礼儀良く手を合わせて食後の挨拶をする臨也と静雄の頭をくしゃくしゃと撫でて、自分も弁当を片付ける。

もうじきチャイムも鳴る頃だろうと考えながら、弧を描く飛行機雲を仰ぎ見た。背を預けたフェンスが、ガシャンと音をたてて小さく揺れ、静かな場に相応しく溶け込んだ。空気を読んで臨也と静雄も無言で空を見上げ、耳を澄ませば微かに聞こえてくる生徒達の声に、暫く意識を集中させる。



「私、今の方が好きだな」

虚空の青を見つめながら、突然呟いたに、二人は聞き返さずに耳を傾ける。

「最初は、さ、臨也や静雄たちと関わった所為で、今までの友達からも避けられるようになって悲しかったし、寂しかった。でも、」

言葉を区切って息を吸い、はぁっと吐くと続きを紡ぐ。

「やっぱり女子の集団の中に居るとさ、無理して合わせなきゃいけない時もあるしで、正直重かったんだよね。…もちろん、その中でも気が許せる子はいたけど」

一通り言い終わると腰を上げて、臨也と静雄の前に立つ。
二人も空から視線を外してじっとを見、少しの間続いた沈黙を、が破った。


「前より、今が好き。臨也や静雄や新羅や京平と居られる今の方が、好き」

微笑みを浮かべて言うに、どこか緊迫した空気は解かれ、臨也も静雄も肩の力を抜く。それと共に安心したように口元を緩ませると、ほぼ一緒のタイミングで立ち上がった。

「シズちゃん真似しないでよ」
「してねぇよ」

そのやり取りに又もは笑みを零すと、間に入って二人の手を握る。――――と、ここでチャイムが鳴り、昼休みは終了を迎えた。


「あ、授業始まる」
「んなもんサボればいいだろ」
「ダメだよ、二人も今日は授業受けに行こう」
「嫌だダルい」
「誰だってそうよ」

臨也と静雄を引っぱるかたちで一歩前を歩き、階段を下りていく。良いのか悪いのか、同じクラスの3人は、当たり前のように一つの教室を目指し、まだ完全に生徒達が席についてなかったせいで、廊下でちらほらとすれ違った人々はたちを思い切り凝視する。


が平和島静雄と折原臨也と手繋いでた!』
『マジか!?』
『それ噂だろ?』
『だから、今3人で手繋ぎながら通っていったんだよ!』
『へぇ、あれって本当だったんだな』


「あー…また噂が広まるねぇ、こりゃ。できれば僕もセルティとそう言われてみたいもんだよ。………制服姿のセルティかぁ。セルティにはセーラーとブレザーどっちが似合うかな?いや、セルティのことだ。やっぱり両方とも――――――」

他の生徒に紛れて、と臨也と静雄を偶然見ていた新羅は、勢いよくドアを開けて教室に入っていく3人を目で追い、セルティへと逸れた話を戻し、最後に呟いた。


「教室にまで手を繋ぎながら入っていくのって……あり?」




青春スカイ