冬でも容赦なく風は吹く。吐息で手を温めたりと、できることはしているものの十分に寒さはしのげない。おまけに制服の下はミニスカートなので、足は特に冷え切ってしまっている。いくら冬といえどもこの風の冷たさは反則だ。授業さぼらなきゃよかった、と後悔したところで何かが変わるわけでもなく。かといって教室に戻るのも抵抗があったので、結局一番落ち着ける屋上で時間を潰すことにした。

「寒い寒い寒い寒い……」と、呪文のようにぼそぼそ呟いていると、不意に何かがに向かって飛んできた。びっくりして思わず乱暴に掴んでしまったのは―――


「……?……これって……」


自分の着ているものとは全くサイズが違う、しかし色とデザインは同じもの。辺りに視線を巡らせると、それを投げてきた本人は簡単に見つかった。


「やっぱここにいたか。そんな格好じゃ風邪引くぞ」
「静雄」

ぶっきらぼうにそう言い放ってきた人物は、校内では言わずと知れた存在の静雄だった。受け取ったブレザーのジャケットと静雄を交互に見たは、今渡されたばかりのそれを静雄に差し出す。


「あの……返す」
「は?」
「静雄の方が風邪ひいちゃうよ。私のせいでそうなってもらっても困るし」
「俺は大丈夫だ」
「でも」
「大丈夫だ」
「……本当に?」
「お前も俺の体が丈夫なの知ってるだろ」
「じゃあ……借りるよ?」
「ああ。膝掛けにでも使え」

押し切れずに、気が進まないまま使わせてもらうことになったが、静雄の優しさは素直に嬉しかった。ただ、彼が風邪を引かないかが心配でしょうがない。けれども、静雄の体がいかに頑丈で強いかはよく知ってるので、今は好意に甘えることにした。

膝にかけてみると、なるほど温かい。冷えていた足がだんだんと温度を取り戻していく。


「あーあったかい……もしかして脱ぎたて?」
「変な言い方すんな」

頭を軽く小突かれる。でも、痛くもなんともない。きっとこれは、いつも物を投げたり殴ったりする時の何十分の、いや、何百分の一の力なのだろう。



「ねえねえ」
「ん?」
「背中合わせで座ろうよ」
「なんで?」
「背中がちょっと寒いから」

の提案に、静雄は少し考えこんでから、隣を離れての背後に回る。暫しの間が置かれたことに、も静雄があまり乗り気ではなかったのか、と不安になったが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


「えっと……静雄?」

腰に回される腕。
どうやっても背中合わせの状態ではできない。つまりこの体勢をとれるということは、後ろから抱きしめられているわけで。


「考えたんだよ。背中合わせよりこっちの方が温まる」
「え、でも、そんな……」
「…………嫌か?」


捨てられた子犬のような目で見つめられて、そのうえ小首を傾げる仕草までされては嫌とはいえない。不覚にも胸がキュンとしてしまう。答えはもちろん、


「嫌じゃないよ!むしろ……うん。こっちの方がいいかもね」


嬉しそうに笑った静雄のこの時の笑顔は、いつまでたっても忘れることができない。




冬の特権