時刻は昼下がりの、新宿の某高級マンション。
タオルケットを胸に抱えながら、まるでヒヨコのようにあとをついてくるに、臨也は面白がって家内を歩き回る。お互い言葉も発さず、しばらく続いたそんな光景に、
「アンタたち何やってんのよ」
放たれた波江の一言でやっと二人の間で会話が始まった。
「なんかがさっきからずっとついてきて面白いから」
「…ついてきてないもん」
「よく言うよ」
タオルケットに顔を埋めて自分の行動を否定するを見て、波江はしばし考えたあと、の言いたいことを察し、わざとらしく声を上げた。
「確かにこの時間だと寝心地はいいかもしれないわね」
「な、波江さん……!?」
途端に慌て出すところから、どうやら当たっていたようだ。珍しく状況についていけてない臨也を一瞥してから、帰宅する準備を整えた波江は、部屋を出る際にからかうような口調で言った。
「変なことされないように気をつけなさいよ。それじゃあね」
言い終わるか言い終わらないかというところでドアは閉められ、、臨也共に波江を止められず、唖然と彼女が去って行った方向を見つめることしかできなかった。訪れる沈黙の中、自分から話を切り出すというのは難しく、黙り込むはタオルケットで顔を覆い隠す。臨也も臨也で口を開かないので、ほんの何秒でも数時間が過ぎたような感じがしてしまうほどの静寂が気まずい空気を生み出した。俯くとは反対に目の前の相手を凝視する臨也は、先ほどの波江の言葉を頭の中で整理し、理解したあとはいつもの笑みを浮かべる。
「、言いたいことがあるなら早く言えば?」
―――俺が代弁するんじゃなくて、から言ってほしいんだよ
ゆっくりと顔を上げて臨也と目を合わせたは、しかしすぐに逸らして、床に視線を落とした状態で口籠もりながら喋り出す。
「えー……と、その……い…一緒に寝て…!」
刹那、の体に手が回され、足は地面を離れる。世間で言う、所謂"お姫様だっこ"をしてを抱き上げた臨也は、満足そうに笑って耳元で囁いた。
「大変よくできました。その言葉が欲しかったんだよ」
「……っ」
頬を赤らめて臨也の胸元に顔を寄せるを更に抱き寄せながら、寝室に向かって、忘れることなく鍵をかける。
「なんで鍵閉めるの」
「邪魔者が入ってきたりしたら嫌でしょ」
「私たち以外誰もいないのに?」
「…、それは遠まわしに、二人っきりだねって言ってるのかな?」
「違うし」
ベッドに横になり、かなり大きさがあるタオルケットを二人で被りながら、暖かい日差しを体に浴びる。まさにお出かけ日和な天気だが、あえて家の中でこうやって過ごすのも悪くない。
「……眩しくない?カーテン閉めようか」
「昼寝はこれくらいが丁度いーの」
「ぐっすり眠れそうにないんだけど……色んな意味で」
「昼寝は軽く睡眠をとるものだよ。ぐっすり寝たら夜眠れなくなる」
欠伸をしてこれからお休みモードに入ろうとするは、隣に臨也が居ることを確認してから、安心したように溜息を吐く。
「小さい頃はよく昼寝してたけど、最近は全然だったからさ。付き合ってくれてありがとね」
「俺は昼だけじゃなく24時間体制でいつでも待ってるからね」
「……言い忘れてたけど変なことしないでよ」
「自分から誘っといてそんなこと言うんだ」
「…とにかく何かしたら一ヶ月会ってあげないから」
「……しませんよっと」
納得のいかないような表情をして子供のように頬を膨らませる臨也の頭を撫でて、口元を緩ませる。こういう幼さが残ってるのを見ると、普段からなにかと悪行をしていてもただの悪逆非道人間でないことが分かって少し嬉しいのだ。真っ当に生きればそれに足りた頭脳や実力もあるし、容姿も良いのだから普通の幸せをつかめてるはずなのに、どうしてこうも折原臨也という男は自分の欲望に従順なのだろうか。もっと人並みに人生を歩めばいいのに。けど、社会の表側で真面目に仕事に取り組む臨也を想像するとどうも違和感しか感じないため、結局今のままでいいと思ってしまうのだった。
「……にしても波江さんに気使わせちゃったかな」
「むしろ波江にとっては早く仕事を終えられてラッキーってとこだよ」
「そうかなぁ」
「絶対そうだって。………それでさ、気になってることなんだけど、なんでは波江じゃなくて俺にしたの? 昼寝相手」
「臨也だったら気楽でいいから」
「……そう。…これは喜んでもいいのかな」
「喜んでもいいと思うよ」
「じゃあ喜んどくよ」
日常で交わされる会話を、今はベッドの中で交わしながら。
"ベッドの中"というと、アレなことを想像する者が大半だろうが、これは決して変な意味ではない。眠る時に隣に誰かが居るというのは、とても心が落ち着くもので、うとうととし出したを優しく撫でる臨也は、の意識に触れないように静かに声をかける。
「おやすみ、」
間もなく寝息を立てて穏やかに夢の世界へいったに続き、の寝顔観察をしていた臨也も瞼を閉じて、眠りの世界に入る。
どこか温かい雰囲気が流れる二人だけの空間は、このまま夕方まで続いたとか。
シエスタ
ナギさんからのリクエストで、臨也とのんびり昼寝でした。
のんびり以前に甘系が微妙に入ってしまって申し訳ないです……自分なりにほのぼのを目指しました。
日常系が好きな私には大変おいしいリクエストでしたv
臨也のマンションということで波江さんがちょっと入りましたが、波江さんは聡い方だと私は思っております。
ナギさん、リクエスト誠にありがとうございました……!!