「臨也ぁああぁぁあぁぁあぁッ!!!」
池袋の町に怒号が響く。ただでさえさまざまな音が交じり合う中でも、飛びぬけて目立っているのはこの声だろう。飛ぶ公共物。ドスの利いた声。池袋ではもはやよくある光景と化しているため、行き交う人々も特別目にとめようとはしない。興味本心からか、少々の野次馬は湧いているが。
「あーもー、ホントしつこい」
飛んできた自販機を軽々と避け、隠し持っていたナイフを突きつける。静雄の今回の標的である臨也は、心底鬱陶しそうに表情を歪めた。
「大体俺はシズちゃんに会いにきたわけでもないのに、毎回毎回なんなのさ」
「テメェが視界に入ってくんのが悪いんだろうが……ノミ蟲」
「うわ理不尽」
次にも2つ目の自販機を投げようとする静雄の行動を先読みし、身軽な身体を別の場所へと移動させる臨也。破損して無残な姿になったそれを哀れに思いながら、心のこもっていない合掌をしてみせ、余裕に満ちた笑みで口を動かす。
「いっつもいっつも町の物壊してさあ、罪悪感とか湧かないの?それ以前に自分がどれだけ迷惑な事してるか解ってる?本当にこれだから馬鹿は」
「…殺す……!!」
青筋を立てて恐ろしい形相で臨也を睨みつけ、道路標識をもぎ取り乱暴に振り回す。怒りに任せたがむしゃらな行為故、臨也には命中しない上に周りの無関係な物ばかりに被害が及ぶ。さらに臨也が挑発するので、収まる喧嘩も収まらない。規模が大きすぎるこの争いに仲立ちする者はいなく、二人の近くに寄ろうとする人も勿論存在しなかった。遠巻きに野次馬たちが見ているだけで、道行く人々は危険に侵されるのを恐れて口出し一つしないのだ。
「……あー…またか」
そんな一対一の戦争が繰り広げられているのを見て、は溜息を吐いた。
人集りの先には、案の定お決まりの喧嘩をしている静雄と臨也の姿。しかも今日はいつになく激しいような気がする。ある程度静雄をからかったあとは、その場から退散する臨也が、今回は一向に逃げようとしないのだ。町中で二人が争ってるのは何度も目にしているが、臨也が上手く立ち回って静雄を撒くので、自分の出番はないと思っていた。それが中々収まる気配をみせないとなったら、これは止める他あるまい。
傍観している人たちの間を通り抜けて一番前に出ても、静雄も臨也もの存在に気づかない。
高校時代の頃からこういう場面には数え切れないほど立ち合い、唯一問題児二人をとめられることから、教師からはかなり重要視されたものだ。卒業して、変わりなく関係を持ってる今でも、臨也と静雄のやり取りは相変わらずのままだった。大人になれば周りを配慮して騒ぎも起こさないだろう。という考えは甘く、逆に悪化している。お陰でイスや机が飛んでたあの頃が平和に思えてしまう。
慎重に近寄り、様子を見て出て行くタイミングを見計らう。不思議と昔から恐怖はそれほどなかった。躊躇い無く足を踏み出せたのは多分そんな慣れのせいだ。
「はい、おしまい!」
喧嘩中の静雄と臨也の間に入るという、新羅曰く「自殺行為」。
易々とそれをやってのけるに、見物していた人々からは驚きのような恐怖のような悲鳴が、小さくあがる。
「………!?」
「え、……?」
二人の動きは停止し、今までの騒音が嘘のようになくなる。
「また一段と派手にやってくれたね」
「シズちゃんが自販機投げたり標識振りまわしたりするから」
「テメェが無駄な口叩いてなけりゃここまで暴れてねぇよ」
「はいはい、どっちもどっちね」
臨也を見かけたらすぐに殴りかかっていく静雄も、ワザと挑発して静雄を余計に怒らせる臨也も、"どちらか"ではなく両方悪い。先に攻撃を仕掛けるのは静雄だが、何かしら事の元凶は臨也だ。
「ご迷惑お掛けしました」
思わぬ出来事に呆然として立ち尽くす群集を前に、臨也と静雄にも一礼させる。そして二人の手を取ると、通報される前にその場から離れた。
「もう程々にしてよね」
「さぁーてどうだか」
「死にやがれノミ蟲」
「死ねシズちゃん」
「こら」
悪口が絶えない臨也と静雄を軽く叱ると、黙り込むものの、視線でいがみ合う。が間に居なかったら再び喧嘩が勃発していただろう。
「私は仕事があるからもう行くけど……喧嘩せずに、臨也は早く新宿に帰って」
「俺まだ私用済ましてないんだけど」
「なら静雄にちょっかいだしてないで、すること終わったらすぐ帰ること」
「はーい」
「静雄も臨也にすぐ殴りかからないこと」
「……考えとく」
まだ色々と不安だったが、時間も迫ってきているので、仕方なく臨也と静雄に別れの挨拶をして仕事場に向かう。町の中に消えていったを見送ったあと、踵を返して場を去ろうとする静雄の背に、臨也の声がかけられる。
「シズちゃんはと手を繋ぐこともなくなるんだ」
「……?」
呟きのようにみえたが、名前を言われて思わず足を止める。どこまでも不気味な笑顔を顔に描きながら、臨也は言葉の続きを紡ぐ。
「触れることさえも、ね。全部さ。全部、俺がさせない」
「……は?」
突然の意味のわからない発言にイラ立ちを覚え、体ごと臨也の方を向く。
「いずれは俺のものになるんだよ。俺だけのものに。だからシズちゃんがと仲良く接してられるのも、今のうちだけだよ?まぁ要するに――――――渡さないからな」
ナイフの刃先を静雄に向け、鋭い眼で睨める。人に底知れぬ恐怖を植えつけるのには十分なものだったが、その相手が静雄ともなると、臨也の威嚇など効いてないも同然だった。
「ベタな言葉だけどね、シズちゃんにはこう言わないと解んないでしょ?単細胞だから」
「…………つまり、俺は宣戦布告されてるってことだよな?」
「そうだね」
殴ってこずに冷静に物事を理解した静雄に感心しながらも、臨也は体勢を崩さずに静雄の動きを観察する。数秒間の沈黙を置いたあと、臨也を見下す形で、静雄は普段見せない色の笑みを浮かべて、宣戦に答える。
「をモノにできるなら、してみろ」
「へぇ、譲ってくれるの」
「んなわけねぇだろ。―――お前よりも先に俺が奪ってやるんだよ」
「……はは、……はははは!そうこなくっちゃ。……が俺のものになった時のシズちゃんの絶望に染まった顔を見るのを愉しみにしてるよ」
「ああ。――死ね、臨也」
Love Wars
山瀬 華琳さんから頂きましたリクエストで、「臨也と静雄と三角関係」でした。
しかしこれ、どこの少女漫画だ
関係を形(文って形なのか?)にするのは結構難しかったですが、こんな感じでよかったでしょうか……?
ネタが浮かばなかったら最終的に新羅に、「君たちって三角関係だよね」って言わせて誤魔化す予定だったんですが、なんとかなってよかったです。
しかし今更ですが、三角関係って 臨也→ヒロイン←静雄 でよかったのかが……そこが少し不安ですが……
山瀬 華琳さん、リクエストありがとうございました……!書いてて楽しかったですv