「次、あそこ行こ!」


はしゃぎながら店へと足を進めるの背中を見ながら、臨也と静雄は肩に掛けている紙袋を掛けなおした。
確かこれで4件目だ。しかも今まで立ち寄った店全部が洋服店で、言うまでもなく臨也と静雄は荷物持ち係である。静雄は問題ないとして、臨也の方はというと疲労が溜まってきたらしく、表情を崩し始めていた。それでも「疲れた」「しんどい」と漏らさないのは、静雄に対しての対抗意識があるからだろう。だがそれ以前に女性の前―――特に好きな女の人の前で弱音を吐くというのは男としてのプライドが許さない。


「わあ、これすっごく可愛い……!」


がさっそく手に取ったのは、花柄のワンピースで、これから訪れる春に似合った暖色系の物だ。彼女が服を選んでる間は退屈の一言に尽きるが、「似合う?どうかな?」と、試着した姿を見せてくれる時は二人とも毎回目の色が変わる。
元々の素材が良いのもあってか、基本どんな服も着こなせる。様々な洋服に身を包み、その度に違う雰囲気を纏う。魅力が上がった上での、天使のような笑顔。―――惚れてる側としてはたまらないシチュエーションだ。


「それも買うのか?」
「うー……ん、迷ってて……」
「迷うくらいなら買っちゃおうよ。俺が出すから」
「え、いいよいいよ!」


既に数着買ってもらってる状況で、これ以上の出費を出させてはいけない。ほとんどは自費だが、臨也と静雄に買ってもらった服も、二人の持つ紙袋の中には入っている。


「遠慮すんなよ」
「ううん、今日はたくさん買ったし、もういいや。二人ともごめんね。荷物重いでしょ?ちょっと休憩できる場所さがそっか」


店を離れて空いていたベンチに座る。思えばずっと歩きっぱなしだった。


「臨也も静雄も、肩、痛くない?大丈夫?」
「全然大丈夫だ」
「……うん、大丈夫だよ」


キッパリ言い放つ静雄と、間を置いてから強がりの返答をする臨也。
元々、荷物を持つと申し出たのは二人であり、最初のうちはも気軽に親切を受け取っていたが、案外長い買い物になってしまったので、二人の体力を心配するのは当たり前のことだった。


「私、自販機でジュースでも買ってくるね」


そう言って近くの自動販売機へ向かったを見送ると、場には日々喧嘩を繰り返している池袋では有名な犬猿の仲の、臨也と静雄だけが残る。二人が一緒にいる光景なんて危険以外の何物でもない。しかし目の前を行く人々は、誰一人として二人に気づくことはなかった。臨也も静雄もこの日は私服だからだろうか。


「はい、好きなのえらんで」


が3つの缶ジュースを腕に抱えて戻ってくる。そして二人に選んでもらってから、余った1つに口をつける。


「このあとどうする?」
は行きたい所あるの?」
「んー、あんまりピンとこないなぁ」
「じゃあ喫茶店に行ってケーキ食うのとか、どうだ?」
「あ、それいいね!行こう!」
は本当に甘いものに目がないね」
「へへっ」




歩いて10分もかからない程の距離にある喫茶店。テーブルに座り、ケーキを選ぼうとメニューを手に取ったは、そこで一つの疑問を口にした。


「えーと……なんで二人とも私の横にいるの?」
の隣がいいから」
「どっちか一人向かい側に行ってよ。せまいじゃん」
「だってよ。早く行けよノミ蟲」
「何言ってんの?シズちゃんが行けばいいだろ」
「お前が移動すれば解決する話だろうが。さっさと行け」
「自分こそ動きなよ。なんで俺にばっかり押し付けるのさ」
「……グダグダ言ってねぇでさっさと席外せや……」
「ヤダよーだ」
「……ッ…この、」


だんだんと静雄の声が低くなり、ワナワナと拳が震え出す。今、店内で暴れられでもしたら大惨事になること間違いなしだ。二人とも今座ってる場所からは意地でも離れるつもりはないらしい。これ以上喧嘩の規模が大きくなったら周りに迷惑をかけてしまうので、間に居たがついに口を開いた。


「二人ともここにいていいから。……もう言い争いはやめよ?」
「……分かった。で、はどれ食べたいの?」
「……チッ、悪ィな」


幸い口喧嘩だけで収まり、他の客にも話し声は聞こえていなかったようなので、ほっと一安心する。気を取り直してメニューを開き、軽く目を通していく。ケーキが食べられるならなんでもよかったのだが、どうせなら好きなものを食べたい。


「私、これにする」
「じゃあ俺はこれにしようかな」
「俺はこれでいい」


さくっと注文を済ませると、早くにケーキがやってくる。
フォークを入れてまずはひとくち。口に運ぶ。甘いクリームが舌に広がり、一気に幸せな気分にさせてくれる。


「んんー!おいしい!やっぱり甘いものはいいよねえ」


子供みたいに顔を綻ばせ、夢中になってケーキを食べるを、臨也と静雄は黙って見つめていた。


(美味そうに食うなあ……)
の笑顔かわいいかわいいかわいい……写真撮っていいかな)


の方ばかりに意識がいってフォークを進める手が遅くなってる二人とは裏腹に、ぺロリと完食したは、満面の笑みで言った。


「あともう二つはいけるな……」
「「え」」


「体重が増えても運動すれば問題なし!」と、ポジティブ思考で結局3つのケーキをたいらげ、満足そうにお腹をさする
時刻は17時。喫茶店を出た頃には、日も傾きつつあった。



「今日はいろんなとこに付き合ってくれて、ありがとね」


楽しかったよ。
一日を共に行動した臨也と静雄に礼を言う。


「俺の方こそ今日はと一緒に過ごせて楽しかったよ。邪魔者はいたけど」
「また今度、一緒に出かけたりしような。二人で」


最後の言葉をわざと嫌味ったらしく強調し、さわやかな声でさりげなくお互いを否定し合う臨也&静雄。


「うん。じゃあね」


そんな二人に苦笑いを零しつつ、持ってもらっていた荷物を受け取り、別れの挨拶を交わしてからタクシーに乗りこむ。
今度は3人じゃなくて1人ずつと行こう。と考えるは、早々と次の予定を頭の中で組み立てるのだった。




池袋の少し平和な日常

それは、まるで、普通の―――






遅くなって申し訳ありません!凛さんからのリクエストで「臨也と静雄と外出」でした。
二人ともヒロインには基本的にあまいです。財布の紐も常に緩々です。これでもしヒロインの性格が悪かったら(二人を財布のようにしか思ってなかったら)臨也と静雄は間違いなく破産してますね。
外出先の候補には動物園もあったんですが、池袋の街をブラブラする方が3人には合ってる気がしたのでこうなりました。
静雄からサングラスとバーテン服を抜いたら多分普通の好青年になると思うんだ。池袋では有名人な彼ですが、その特徴さえなくしてしまえば多分ほとんどの人は静雄だって気づかない(はず)

リクエストありがとうございました!!