「そうなの?にぎやかそうで羨ましいなあ」


メアリーはそう言うが、当事者であるにとっては、賑やかというよりはただ単に騒がしいだけだと、強く異議を唱えたい。
一人っ子の人間には、よく今のメアリーのようなことを言われるが――――


―――ん?


そこで、の中に疑問が生まれる。
メアリーには、きょうだいという存在はいないのだろうか?
そして、何気なく口にする。
―――してしまう。


「メアリーには、きょうだいがいないの?」


それが―――メアリーという少女にとって、辛い現実を突きつける一言であるとも知らずに。


「………………うん」


返ってきたのは、消え入りそうなほど小さな肯定。
緑色のスカートを握り締めて、メアリーはそのまま俯いてしまう。


「――――」


あからさまに一変したメアリーの態度。
いくら共に過ごした時間が短いといえど―――流石にここで何も読み取れないほど、は鈍感ではなかった。


―――訊いてはいけないことを、訊いてしまった?


人には誰でも、他人に踏み込んで欲しくない部分がある。
もしそれが、メアリーにとって、"きょうだい"のことだったとしたら。


―――だとしたら、私はかなり無神経なことを……


どうにかして沈黙を破ろうと思考するだったが、何を喋ればいいか分からず、口籠もってしまう。
話を逸らせばいい?相手が喋るまで黙っていればいい?どう行動を起こせば、メアリーを刺激せずに場を乗り越えられるだろう?――――分からない。
脳内が焦りと不安で支配されていく一方、意外にも先に口を開いたのはメアリーの方だった。



「わたし、ずっと独りだったの」
「……え?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんと妹と弟とお母さんは元々いないし、お父さんはわたしを生んですぐにいなくなっちゃったし」
「あ、え……?」
「友だちもずっといなかった。……だけどね」



頭を上げ、と視線を絡ませてから。



「来てくれたの」


にっこりと。
不気味な程に口角を吊り上げて、その綺麗な顔面上に笑顔を浮かべて見せた。
"無邪気"とは遠くかけ離れた黒く淀んだ感情が、笑みの奥で見え隠れしている。


―――っ


がメアリーから『普通ではない何か』を感じ取るのと、メアリーが一歩を踏み出して歩き始めたのは、ほぼ同時のことだった。


「わたし、同い年くらいの女の子の友だちと、優しいお姉ちゃんがずっと欲しかったんだ。わたしいつもひとりぼっちで、お絵かきばっかりしてたから……。――――ねえ、のお父さんとお母さんってどんな人?もし、ここから出られたら……ふふふ……仲良くできるかなあ。もちろん、きょうだいの人たちとも。それからいっぱい外で遊んで、ケーキとかクッキーとかチョコレートとかたくさん食べて、そのあとはまたイヴとと遊ぶの!」


楽しみだなあ。すごく楽しみだなあ。
子供らしさが全面に押し出された声は、歳相応の少女が吐き出すに相応しいものだった。
さきほどが見た『普通ではない何か』など、まるで最初からなかったみたいに――――。


「…………」


何故かは、解らない。
一つも言葉を発することができないは、ただ、ドロリとした狂気に全身が蝕まれていくのを感じていた。
その正体も真実も解らぬまま。
目の前にいる少女の裏側に、底知れぬ闇が渦巻いているのだけを理解しながら。


緑色のスカートを翻して、メアリーが振り返る。
顔に、一点の曇りもない、満面の笑みを貼り付けて。




「イヴとギャリーに負けてられないよ!わたしたちも、出口を見つける手がかりを探さなきゃ!」


「――――ほら行こ!




夢見がち症候群


がメアリーの秘密を知るまで、あと××分××秒