- Let’s daze -
友達と遊んでいる子供たちのはしゃぎ声も、キコキコと鳴るブランコの音も、幼い我が子に連れ添っている主婦たちの声も、短い命を燃やすように鳴き叫んでいる蝉たちの声も。
公園内に雑多に響くすべての"日常"が自分という存在とは遠くかけ離れた場所にあることを自覚しつつ、私は手に持っている500mlの黒い炭酸飲料を喉の奥に流し込む。
空は雲一つない晴天だった。清々しいくらいにカラッと晴れた今日の日は正に外出日和というに相応しい、実にありがちな夏の日だった。
世間的に不評なじめじめとした梅雨の季節が過ぎ、刺すような太陽の光と熱気で揺らめく陽炎を引き連れて、あっという間に猛暑はやってきた。普通に学校に通う生徒や学生たちにとっては一年で一番待ちわびる季節なんだろうが、私にとってはこの茹るような暑さは正直毎年憂鬱でしかない。
陽に焼けて肌は赤くなるわ、虫は発生するわ、浮ついた子供は増えるわ、イベント行事で街がやたらと騒がしくなるわ、幼少時代の出来事は思い出すわで、良いことなんて所詮冷たい食べ物がおいしくなるくらいのものだ。一日中冷房機器が傍にないとロクに過ごせないというのも非常に面倒で厄介だ。その分お金もかかる。
これだから、夏は。
「……はあっ」
残り三分の一だったペットボトルの中身を一気に飲み干し、周囲の人の視線など気にせず大きく息を吐く。これで腰に片手でも添えてれば完璧な飲みっぷりだったろうが、流石に公衆の目が多くある場所では躊躇われた。どこの銭湯に入った後の親父だ、と心の中で呆れ混じりに引かれるのは女子として心苦しいものがある。
「いや、今の飲みっぷりも十分豪快っすけどね」
シュワシュワの炭酸がゆっくり胃に送られていく感覚を味わいながら、ぼーっとした頭でそんなことを考えてると、どこからともなく私の心中に突っ込みを入れる声が現れた。
「っえ!?……うわっ!」
声のした方――とっさに背後を振り向くとそこには、目を赤く光らせた緑のツナギをきた男――セトの姿があった。「セ……セト?びっくりした」驚いた勢いで2、3歩後ずさってしまった私を見て彼は少し眉根を下げながら瞳から赤の色を消す。
「驚かせちゃったっすね、すみません」
「う、ううん、いいよ。それより、どうしたの?みんなのとこにいなくていいの?」
セトが滅多に使わないはずの能力。さっきの心の中での独り言がどこまで聞かれてたのかに焦りと戸惑いを隠しきれず、無意識のまま更に一歩後ずさると、ドン、と何かにぶつかり身体に軽い衝撃が走った。
「わっ」
「それはこっちの台詞なんだがな……」
――またも慌てて後ろを振り返ると、謝罪を口にするために衝突した人物に向き直ったのだが、
「す、すみま……キド?」
頭を下げようとした私の前に堂々と腕を組んで立っていたのは、これまた見知った人物だった。近くにいる気配が全くなかったのを考えると、今の今まで目を隠していたんだろう。それが今の衝突で解けた、と……。…………。いやいや、何でアジトにいるはずの二人がここにいるんだ。
二人してひっそりと現れるお蔭で私の心臓はバックバックと大きく脈を打っている。
「あの作戦会議の直後に『ちょっと外出てくるね』なんて言われたら、放っておくわけにいかないだろ」
「そうっすよ。ここまできてまだは俺たちに隠してることがあるんじゃないかとか、抱えてるものがあるんじゃないかとか、不安になって追ってきたんすよ。……落ちこんだときとか悩みがあるときは決まって一人で外出してたっすからね、は」
「うっ……」
見破られていた。
やれやれといった調子で語るセトに、キドも力強くうんうんと頷いている。これも付き合いの長さ故だろうか。たった一言告げて出てきただけで、こんなに色々考えさせてしまうだなんて。
セトの言う通り、昔から私は感傷に浸りたいときは一人でブラブラと外を彷徨うのが癖になっていて、ときどき思案に耽りすぎて気づかないうちに知らない場所へ迷い込んだりもした。その度に楯山家総出の大捜索になったりしたものだから、以来、私はあまり一人で外出させてもらえなくなったりもした。考え事をしていたらいつの間にかという具合なのでセトの放浪癖とはまた違ったものなのだが、勝手にいなくなられるという点では同じ迷惑をかけただろう。
――申し訳ないと同時に、懐かしい。
本当に、本当に今更だけどたくさんの気苦労をかけた。
今日は行き先も告げて、ジュースを飲んでゆっくりしたらすぐ帰るつもりだったのに相変わらずこの昔馴染みたちは心配性だ。
……この期におよんで悩んでることなんて何もない。
"カゲロウデイズ攻略作戦"の前にカノがセトを通じて感情を吐露していたけど(彼はたくさんのものを抱えていた。みんなが知らない事実も、あの日の裏側も、自分の知る限りのことを今までひっそりと積み重ねてきた本音と一緒にやっとの思いで吐き出した)。カノが背負っていたものに比べれば、私の感情なんて小さなものだ。私はただ、知っているだけだから。カノのように"冴える"に脅されることも強要されることもなかった、ただ皆より事のあらましを多く知ってるだけで。よって、吐き出すほどのものではない。あったとしても打ち明けたところで意味はない。意味はなくなる。
あと少ししたら、もう全部終わっちゃうんだから。
「……だから、能力を使うことを躊躇わなかったわけ、セトは」
「ええ。カノに感情をぶつけられた時からっすね。――もう誰にも一人で抱えこまないでほしいんすよ。それに、次の作戦はメカクシ団全員で挑む今までで一番重大な任務になるっすからねえ。この作戦で俺達がずっと前から探し求めてた事実に、世界に、逢いたいと願い続けた人たちに逢えるかもしれないんすよ。ここまできて隠し事はなしっす」
「その通りだ」
優しいセトの言葉とキドの柔らかい微笑みが、一瞬、私の中にある全ての絶望と後ろ向きな感情を吹き飛ばす。
今度こそ、いけるかもしれない。闇に押しつぶされずに皆で――――なんて希望に縋り付いてしまう。けれど理性は瞬時に帰還し、そんな淡い想いは簡単に打ち消されてしまう。何回も何回も抱いては消えてしまったのだから、仕方がない。
「……ありがとう。大丈夫だよ」
終わる世界を前に、もらったものが直視できなくて私は二人から目を逸らしてしまう。とても真正面から受け止めることなんてできない。今度こそ、と信じてしまいそうになってしまう。
お礼以外に気がきく言葉を見つけられずに視線をずっとズラしていると、道の向こうからこちらに駆けてくる二人組を視界に捉えた。気になったので目を細めてその見覚えのあるようなないようなシルエットを凝視していると、顔が認識できる距離になってから一人の方が大きく手を振りながら声を張り上げた。
「、そっちにいたー!?」
珍しく息をあがらせて喋っているのは、カノ……とその後ろには今にも倒れそうなくらい足取りのフラついたシンタローが、一直線にこちらへ向かってきていた。
「そっちの公園に、いたら連絡してって、言ったじゃん、キド」
「悪い。忘れてた」
「シンタローさん、大丈夫っすか……?」
「おま、これがっ……大丈夫に、見えんのか……っ」
どうやら二手に分かれて私を捜しに行っていたらしく(確か今いるところ以外にアジトから近い公園はもう一つある)、見つけた方で連絡を取り合う予定だったみたいだ。
肩を激しく上下させて息を荒げてる二人を前に、私は更に罪悪感が募るのを感じる。ここにきてまでどれだけ周りに迷惑をかけてるんだ、自分は。タイミングもあっただろうけど、幼い頃の前科のせいで行き先を伝えて出て行っても私が考えてる以上の心配をさせてしまっていたようだ。
アジトで暮らし始めてからは四人で協力して生計を支えていたので、気の向くままにどこかへ出かけるなんでことはほとんどなかった。それを思えば、今回久々に昔の癖が再発したことにキドたちを騒がしてしまうのは必然だったと言えるだろう。
本当に申し訳ないと頭を下げたい気持ちになるのと同時に、湧きあがってくるのは――――
「……ごめん。なんか、本当に」
「うん。ほんっとうに疲れたよ」
「うっ」
おずおずと言葉を紡ぐ私に対し、カノが息を整えながら呆れ口調で吐き捨てるように言う。悪いのは自分だし、彼の性格上私も慣れたことなのだけども、流石に率直すぎる一言に心を折られそうになる。
――――でも。
「――でも、……うん。いいんじゃないかな」
誰とも目線を合わせずに虚空に向かって呟くカノに抗議する気にはなれなかった。話しかけることすら躊躇わせる空気を纏ったあと、彼は見慣れた人の良い笑顔を作り身体ごと私の方へ振り返る。
「それより、僕はともかくシンタロー君が今にもくたばりそうだからさ、」
「えっ……ああ!シンタロー、ごめん!」
カノにそう言われセトとキドに介抱されてベンチに座っているシンタロー(某ボクサーが燃え尽きたような体勢になってる)に駆け寄る。
「ご、ごめん!私のせいで駆り出されて、」
「俺が連絡を入れるのを忘れてたから、無駄に体力を使わせた。……悪いな」
「んー?なんかと話しでもしてたんでしょ、もう気にしてないよね〜、シンタロー君?」
シンタローの背中を撫でながら私の謝罪を遮ってキドが自分の失態を詫びる。それにのるように、現場にいなかったカノが憶測でのフォローを入れる。二人がまるで用意されていた台詞を読むように連携するものだから私は呆けて自分の続く言葉を見失った……が、二人が私を庇ってくれていることに気づき、何か言わなければと口を開く。――つもりだったけど、横でキドとカノのやり取りを聞いていたセトが、私の方を見て微笑んでから続いて声をあげたので、結局私の声は発せられなかった。
「ははっ、まあそんなとこっすね。……あっ、シンタローさん、何か飲むっすか?」
「…………え?」
どこまでも優しい幼馴染みは、流すように話題を変える。本当に私は、助けられてばっかりだ。
一方で――未だに呼吸が安定してないシンタロー(彼からしたら私の昔からの癖なんて知らないだろうし、ごめんね)がセトの後半の言葉に反応してゆっくりと顔を上げる。
その視線の先にあるのは、色とりどり様々な種類の飲料が揃えられた長方形の機械の箱。中には私がさっき飲んでいた、そして彼の大好きな赤い背景に白いロゴが特徴的な炭酸も存在している。――恐らく今、シンタローの意識はその黒い炭酸に固定されたことだろう。
おもむろにベンチから立ち上がると、幾分か回復した体力をすぐに消費するかの如くスタスタと早足で販売機の方へ引き寄せられて行ってしまう。辿り着いてから、財布を取り出し、小銭を入れ、ランプが光ると同時にボタンをプッシュして取り出し口から物を取り出すまで、ほんの数秒。キャップを緩める際に炭酸飲料独特の音を発生させて、間を置かずに飲み口に唇をつける。
――さきほどの私よりも豪快に腰に手を宛てがって一気に中身を喉の奥に流し込んでいく。その相当喉が渇いていたんだろうと思わせるには十分な彼の飲みっぷりを見せられた私は、『開けたてを一気飲みしてゲップは出ないのかな』と正直な感想を思い浮かべていた。――そんな隣で。
「……俺も、なんか喉渇いたんで、買ってくるっす」
「僕もー」
「そうだな」
セトの一言を皮切りに、カノ・キドも合わせて三人がぞろぞろとシンタローに感化されて自動販売機へと吸い込まれていく。そういえば、と片手に持ってる空のペットボトルの存在を今の今まですっかり忘れていた私も、セトたちに続いて販売機横のごみ箱を目指して歩き出す。
「結構あるね〜なににしよっかな〜」
「カノ。たまには奢るぞ。『あったか〜い』限定で」
「こんな炎天下の中でそんなの飲んでたら茹っちゃうよ」
「は何か飲むっすか?」
「私はさっき飲んだばっかだからいいかな」
「そうっすか。じゃ、アジトにいるマリーたちの分、一緒に選びましょう」
「モモちゃんは確かシンタローと同じのが好きだよね?」
「ああ。あいつと味覚の好みが一部だけでも合ってるっつうのが不本意だがな」
「兄妹だね〜」
「ここには奇怪な飲み物が売ってなくてよかったよ、本当に……」
「マリーは紅茶、キサラギさんはシンタローさんと一緒の……」
「ヒビヤ君はオレンジジュースでいいかな。コノハの好みは……私知らないんだけど」
「あいつは何でもいいと思うぞ」
「なんでも喜びそうだよね」
「ああ。なんでもいい」
チャリチャリと小銭を絶え間なく投入しながら、ああだこうだと自動販売機の前で途切れない会話が交わされる。
アジトにいる皆の分も無事に買い込んだ後、ふと、今のそんな光景を思い返し――――口から皮肉的な笑みが漏れた。これじゃあまるで、ありがちな街の日常の一部じゃないか。セトたちが現れる前、周囲との隔たりを感じていたのが嘘みたいに"普通"に溶け込んでしまった自分に、何とも言えぬ感情が込み上げてくる。
もどかしいような、嬉しいような、悔しいような、悲しいような、虚しいような。色んな気持ちが浮上しては沈んで目まぐるしく心中を支配していく。あと少しで全て"黒"に押し潰される結末を、覆したいんだと主張せんばかりに溢れだしてくる様々な色の感情は――もしかすると、見飽きた未来を塗り替えてしまうのではないかと根拠のない自信を私に抱かせるのだから、本当に厄介だ。
立ち向かって、壊されて、今度こそと口ずさんで、やっぱり奪われて、信じてまた、叩き落されて。
数えきれないくらいに希望と絶望の間を行き来して、もう今となっては待ち受けるものに身を任せるだけになったが――――
本当に、本当におかしなことに、ここにきて今更新しい未来を見出してしまいそうなんだ。さっきのさっきまで、前の前の世界では考えもしなかった空想が、ふっと脳裏を掠める。
すっかり軽くなっていた空のペットボトルをゴミ箱めがけて投擲すると、軽い音を立てて底へ落ちていった。
「……なあ」
ジュースのペットボトルを抱えながらアジトへの帰路を辿る途中。
私の少し前を歩いていたシンタローが、ぼそりと私に話しかけてきた。顔はこちらに向けられず、動く足も止めることはないまま、
「大丈夫か?」
「えっ」
独り言のように零された言葉に、私は一瞬首を傾げる。鮮明に聞き取れなかったのもあるが、何より無愛想なシンタローの口から放たれるにはあまり似合わない一言がかけられたことに驚きを隠せず、戸惑いが先走る。……『大丈夫か?』だって?
「……『の昔の癖が再発したー!』とかで、カノから少し話しを聞いた」
「あー……」
「オレはお前との付き合いが浅いし、分かりきったことも偉そうなことも言えねえけど、…………何かあるなら、別に、言えばいい」
「――――」
声に抑揚はない。傍から聞けば非常に無機質な淡々とした喋りに聞こえるだろう。が、キドたちほど一緒に長い時間を過ごしてはきてないものの日々を共にした仲間として、私は彼の愛想のない口調の裏側に温かいものがあることに気付く。シンタローの言いたいことを悟った瞬間、私の胸の奥から熱いものが湧き出してきた。――意外と優しいんだよな、この人。
私は彼を安心させるために力をこめて言葉を返す。「大丈夫」。自分でも不思議なくらい、ハッキリとした声量で。
「大丈夫だよ」
「……」
「みんなが来てくれて、気分が晴れたし」
「……。……そうか」
「うん」
「……」
「……ほんとだよ?」
「なら、いい」
いまいち納得がいってないといいたげな沈黙を挿むシンタローに、自分の思いを正直に伝える。先に待ち受けてるものを嘆きたい気持ちとか、理想と希望を混ぜ込んだ思い込みのこととか、考えることはたくさんあったが何度も繰り返した世界で一度も打ち明けてないことを今更言ったって、と理性が歯止めをかける。
「問い詰めるみたいな言い方して、悪かった」
首を傾け、一度チラリとこちらに視線を寄越したシンタローと目線が合う。その気だるげな黒い瞳と目が合った瞬間――――彼が再び前を向いたタイミングで私は立ち止まり、何かにおされるみたいに無意識に声をあげていた。
「――――あ、やっぱり!」
そのいきなりの大声に歩を止めて、冷静だったシンタローが焦りの色を表情に滲ませる。「ど、どうした?」傍にいたキド、セト、カノの三人も肩を跳ねさせてから釣られるように足を停止させ、目を丸くして私の顔を凝視する。次の言葉を待つ4人の顔をそれぞれ順番に見てから、心の奥底で感じたことのないざわめきを覚えつつ、私は声を絞り出す。
「――やっぱり、私、話したいことが、ある……!」
思考よりも舌の動きの方が上回っている。
するつもりもなかった告白をしてるのだから、おそらく今の私は理性というのが半分吹っ切れた状態なんだろう。自分の意思でも止めることができない。それが証拠だ。
「みんなに、聴いてほしい」
今まで打ち明けてこなかったこと。抱えてきたもの。見てきたもの。この先にあるもの。過去のこと。何度も同じ結末を見たこと。全部、全部、知ってほしい。共有して、分かち合ってほしい。何度も何度も掻き消された夏の時間を。かつて存在した私たちのことを。
一度表に出したら、もう止まらなかった。燻り続けていた感情が、爆発した。
背にした公園の喧騒も街の雑踏も聞こえなくなり、場に沈黙が横たわる。茶化せない空気が何秒か私たちの間を支配し――――
「――分かった」
真剣に首を縦に振って、最初にキドが短く答えてくれた。
私は今どんな顔をしているだろう。どんな目をしてるだろう。もしかしたら赤く染まってるのかもしれない。目頭の辺りがやけに熱いから。
「じゃ、早くアジトに帰らないとね〜」
キドに続いて、フッと口角を上げてからいつものノリでカノが言うと、
「ええ、すぐに再会議の準備を始めるっすよ!」
ガッツポーズを作ってやたらと気合いの入ったセトと、
「……ん」
何かに満足したようなシンタローと。
――――再び5人でアジトを目指して帰路を進み始める。
先刻まで蟠ってた思考と気持ちが一気に解放された気分だ。己の中だけで溜め込んでいたときは様々な不安も諦めもあったが、口にしたことで雲がかかっていた考えは驚くほどきれいに晴れた。なぜ今まで誰にも話そうとしなかったのだろうと、少し前の自分を後悔するほどに。――無論、そんなことを思ってる自分に我ながらとても驚いてるのも事実だ。このあとに皆はどんな反応をするのか、私の話は信じてもらえるのか、真面目に取り合ってもらえるのか、突飛すぎる話だと一蹴されないか。信用してもらえたとしても、今度こそ、今度こそ違う景色を見られるだろうか。そして、それはどんな風景だろうか。
心配事と疑問はまだまだ尽きずあるが、『皆なら信じてくれる』という謎の確信を心のどこかに留めておくことで、私は、やっと、なんとか、前を向くことができた。
青い空を仰いだ瞬間、どこからか聞こえてきたのは午後五時を知らせるパンザマスト。それを聞いて私は、すでに背後にしていた、さっきまで自分がいた公園を振り返る。
今、あそこで遊んでる子供たちはもう家に帰るのだろうか。それとも、夏はまだ陽が高いことを理由に遊び続けるのだろうか。
どちらにせよ、街中の子供たちに"合図"を送るチャイムの音はいつもと変わらず懐かしい童謡のメロディーを流し続ける。
曲の題名に反した青い青い空は、まだまだ子供たちの時間は終わらないんだと豪語するかのように、夏風を吹かせていた。
- Let’s chang -