審 神 者 の

休  日  出  勤

と 、 刀 剣 男 士










▽和泉守兼定
「あー、そうか」


明日、何か予定とかあるか?との和泉守さんの問いに仕事だと答えれば、彼は視線を横に逸らしてガシガシと頭を掻いた。 何かあった?と黙りこんだ彼に聞き返せば、黒い長髪を乱していた手の動きが一瞬止まった。またすぐに再開されたそれは若干荒くなって、


「アンタになんもなかったら……一緒に街にでも出ようかと、思ってただけだ」


後半になるにつれて小さくなっていく語尾。背けられた顔にはうっすらと朱が差している頬が。珍しく覇気のないその様子に罪悪感を覚えながら、ごめんね、と口にすると次に聞こえてきたのは穏やかな低い声。


「謝ることじゃねえ。……ま、なんだ。頑張んな」


その場を立ち去り、私の隣を横切る際、力加減を知っている大きな手が私の頭をクシャりと撫でた。




▽堀川国広
「それなら、お弁当はいります?」

休日も仕事が入ったんだ、と言ったら真っ先に返ってきたのはそんな言葉。料理上手な国広くんのご飯なら是非頂きたいと、首を縦に振る。じゃあ、お願いできる?。真っ直ぐな視線を向けて私の答えを待っている彼にそう告げる。


「はい。もちろん!」


主さんが一日頑張れるように精一杯つくりますね。あっ、食べたいものとかあります?
威勢よく引き受けてくれた国広くんが、さっそく中身のおかずについて考え始める。 ものによっては夜から仕込みをしておかないとね、と本格的なものを作る気満々な彼に、朝片手間にできるものでいいよと口を挟む。


「いえ。主さんが外で頑張ってくるんだから、僕も腕によりをかけますよ!」


それだけでお腹いっぱいになりそうな笑顔が眩しい。




▽加州清光
「え、ほんとに?」


明日も仕事だ、と化粧水を手のひらに落としながら言うと、私の布団の上でのんびりと書物を読んでいた清光が顔をあげた。


「早く寝なきゃじゃん」


就寝前のスキンケア中の私の隣に来た清光は、ほら早く、と両手のひらで顔面を覆っている私を急かす。それに対し、んー、と気だるげに返事をして手を肌から離すと、空気に触れたそこに再び冷たいものがかかった。


「もたもたしないで、ほら」


清光の手が私の顔に優しく押し付けられる。何かと思えば蓋の開いた乳液の容器が視界の端に映った。明日もあるならちゃんと体を休める時間つくって、と机の上に広げられた私の化粧品を片付けて、おやすみの最後を一言に清光は部屋を出た。




▽大和守安定
「明日仕事なの?」


清光が出ていって間もなく。障子戸が開いて一つの顔が覗いた。そうだよ。知ってたの、と聞けばそこの廊下で会った清光に聞いたとのこと。


「何時に帰ってくる予定?」


尋ねる安定くんにざっくりと、夜、とだけ答えると、訪れるのは沈黙。……お気に召さない回答だった?仕事が終わる時刻は前後することが多いからはっきりとした時間が教えられないことを伝えると、ふーん、という興味無さげな反応。


「……分かんないなら迎えに行けないじゃんか」


と思ったらあれ、逆だった。気落ちした雰囲気を漂わせる安定くんに、じゃあ玄関で出迎えてくれる?と尋ねれば、うん。もちろんだよと頬を緩めて頷いてくれた。




▽長曽祢虎徹
「早よう。良い朝だな」


起きて寝間着のまま部屋を出ると、眠気を感じさせない声に話しかけられた。半開きの目をこすりながら決まり文句として同じ挨拶を返すと、時間差で目の前にいる相手を認識した。新選組を率いる隊長の刀だった彼の堂々たる威厳を前に、私の意識が瞬時に覚醒する。


「お、背筋が伸びたな。堀川国広が主のために弁当をつくると早朝から励んでいた」


今日も仕事と聞いたぞ。上から降ってくる落ち着いた声に、はい実は、と返すと次の瞬間――頭が揺れた。


「まだ身嗜みを整えてないだろ?」


私の髪、というより頭そのものを遠慮なく撫で回す長曽祢さんは、わっ、わっ、と戸惑ってそれに翻弄される私を眺めながら笑い声をあげる。――皆が休んでいる時に働きに出るのは結構。けど、無理はしてくれるな。肩に移った手が元気づけるように熱を伝えてきた。




▽燭台切光忠
「ん。じゃあそこにお願い」


食べ終わった後の食器を厨房に立っている燭台切さんの所へ持っていく。お願いします、と適当な場所に置いてからすぐに次の朝支度をするために場を離れようとすると、背中に声がかかった。


「終わったら真っ直ぐ帰ってくるんだよ」


聞きなれた世話焼きな発言。親みたいだなと懐かしさを感じて振り向けば、爽やかな微笑みを浮かべた燭台切さんが。金色の瞳を細めて、彼は続く言葉を口にする。


「今日の夕餉は君の好きなものをつくるからね」


だから頑張っておいで。片手をひらひらと振る彼の一言に息をのんで、楽しみにしてる、と私も同じ動作を返した。私の好きなもの。どれをつくってくれるんだろう。脳内に浮かぶいくつかの好物が自室に着くまで私の頭の中を駆け巡っていた。



▽鶴丸国永
「随分憂鬱と見える」


壁にもたれかかって私を眺めている鶴丸さんがそんなことを呟いた。そりゃまあ休日出勤ですから、と零すと、ほらまた溜め息だ、と指摘が飛んでくる。……どうやら、無意識のうちに何度か漏れていたらしい。


「ま。君が帰ってきた暁には、一日の疲れも吹っ飛ぶだろう驚きを用意しててやるから」


存分に体を動かして存分に疲れてこい。溌剌としたその声に、何かがあるって先に言っちゃうんですね、と突っ込むと――次に返ってきたのはいつもと種類の違う笑顔。


「なら、今、その陰鬱な気をどこかへやってやろうか?」


壁から背を離し、怪しい笑みでこちらに近寄ってくる鶴丸さんから反射的に距離をとると、なんてな。冗談だぜ。一瞬にしてやる気が抜けたような表情になったので結果的に少しだけ気が紛れた。




▽大倶利伽羅
「歩けよ」


向けられるのは無愛想な顔。かけられるのはぶっきらぼうな言葉。しかし怒る気にはならない。なぜなら。


「前見ろ。歩け」


本丸を出て、職場へ向かうために歩いている私の後ろを大倶利伽羅くんが五歩ほどの距離を空けて付いてきている。私が立ち止まって振り返れば、短い言葉でさっさと進めと促してくる。傍から見ればかなり変な光景だが、私はこの構図が気に入ってしまった。


「……帰りは、今みたいにグズグズするなよ」


一見不機嫌そうだけど、途中まで見送ると彼から申し出てくれたのだ。本気で嫌がられてる訳ではないと分かっていると、自然と気も大きくなってしまう。はーい、なんて間延びした返事をしたりして。





外へ出てしまえば、胸の中にあったもやもやとした感情はほとんど消えてしまった。本丸で帰りを待っていてくれる刀剣男士たちと、彼らからもらった数々の励ましの言葉が、日常の雑踏に踏み込む私の背中を押した。