「臨也さん、あがりました」
扉を開けて開口一番。風呂上りの報告をすると「こっちにおいで」の合図を送られる。手招きに従って臨也の座っているソファに歩み寄ると、隣に腰かけるように命じられた。
「」
肩を抱き距離を縮め、甘い声で名前を呼んでくる臨也に思わずビクッと身体を震わせただが、抵抗はせず大人しく臨也に身体を預ける。
「今夜は楽しもうね」
昨日休んだ分も。
ぞわりと不快感に付け込む囁き。にとっては恐怖心を煽る一言でしかない。と同時に長い夜が幕を開ける宣言でもあった。愛し合う―――否、臨也の一方的な愛がに向けられる、夜。テレビもついてない空間で静かな時を過ごし、の火照っていた体が大分冷めてきた頃。臨也がを"お姫さま抱っこ"で抱えたかと思うと、一直線に寝室へと向かった。
そして、スペースの広いダブルベッドにを下ろした次には、覆いかぶさる体制でゆっくりとその体を倒す。
「、」
酔いしれているような、そんな雰囲気。
まだ事が始まる前にも関わらず、甘美な響きをもった声は愛しい相手を前にして、こうやって服越しに肌が密着してるだけで満足だと言わんばかりに。
言わん、ばかりに。
「大好きだよ」
しかし、実際のところそれでは心身を満たすことはできない。心行くまで愛さなければ、快感には浸れない。
「愛してる」
の手首に、髪に、首に、頬に、キスの雨を降らせ、リップ音をたてる。あちこち行っていた口は最後には唇にたどり着き、強引に舌を入れ込むと、口内を乱暴にかき回す。
「あっ……ん、んんっ」
混ざり合った唾液を飲み込む暇さえも与えず、酸素を十分に吸うこともさせない。そのまま数分が流れ、苦しそうに呼吸をするの黒髪を梳きながら臨也が言葉を紡ぐ。
「いつになったら、は俺の方を向いてくれるのかな?」
片手は服の中へと侵入させ、の柔らかな胸をしっかり掴む。
「俺はこんなにも愛してるのにさあ、なんで?誰か好きなやつでもいるの?忘れられない人がいるの?違うよね。はいつも「臨也さん臨也さん」って俺を求めてくれてたし。……そうだよ。前は逆だったんだ。が俺を追いかけて、俺がそれを受け止める側だった。でも今は?俺ばっかりがを愛しては俺に何もくれないじゃないか。両想いになったかと思いきや、何故か君は俺から遠ざかっていく。……結局、その程度だったって訳だ。悲しいね。弄ばれた気分だよ。俺が言えることじゃないかもしれないけどさ。のことは、本当に愛してた。いや、愛してるんだよ。今も、こうやって」
「………じゃあ、なんで………」
まだ正常に戻ってない息遣いで、がか細い声を発した。
「なんで……私を傷つけたり、するんですか?」
ストレートな問い。
たいして臨也は間を空けずに答える。
「そんなの、愛してるからに決まってるだろ」
何を今更言わせるんだ、と口調が語っていた。
「全部俺の愛の形。俺の愛し方。分かんないかなあ。―――ま、それでもいいよ。俺はを手放すつもりなんてないし。それと安心して。今は殺すつもりはないから。愛することもやめるつもり、ないから」
の頬に冷たい何かが当てられる。
考えなくても即座に特定することができた。
平べったく、切れ味のいい、銀色をしたアレだ。
「死ぬまで想い続けてあげる」
「誰よりも君を愛してるよ、――――」
夜はまだまだ終わらない。