立たされてる状況に似合わず、気持ち悪いくらいに生活感がある部屋は、過ごすのには不自由一つないくらいに需要品が揃っていた。
ベッド、タンス、テーブル、イス、大小のぬいぐるみが数体。ただ壁と床のカーペットに飛び血がついてる点を除けば、若い女の子が使用する自室としては十分に成り立てる環境であった。近頃の女学生の部屋と比べて、少し殺風景というだけで。
境遇とは似つかない、不相応な箱の中。はペットのように、愛玩人形のように、奴隷のようにして飼われていた。
臨也は常にを一つの場所に閉じ込めてるわけではない。
朝食・昼食・夕食はしっかり与えるし、風呂にも入らせる。家にこもってでの仕事の際は、自分の目の届く範囲でのみを個室から解放し、外に出す。―――と、いっても本当の意味での"外"ではなく、一室から出しただけで、事実上は臨也のテリトリーの中に過ぎない。
も最初は逃げ出そうと何度も臨也の目を盗んでは抜け道を探ったりしていたが、やがて折原臨也という拘束具に強く縛られて逃れられないと知って以降、無駄だと諦めたのか、反抗することは一切なくなった。
現在に至っては刃をあてられても、ぐっと痛みを堪えるだけで、無理矢理な性交にも黙って応じるようになっている。
『つくづく、人間の適応力には感心させられるね』
『がうちに来てからまだ二ヶ月くらいしか経ってないけど……』
『あの子も、理解したんだろう』
『そして、自分の行ってきた愚かな行動の無意味さを知った』
『黙って言うことを聞いていれば傷を負うリスクも減るということ』
『抵抗すればするだけ、その身体にダメージがいくこと』
『……学習能力が高い子は物分かりが良くて助かるね』
かつて臨也はをそう評した。
命令を無視したら、罰として肉体に苦痛を与える。それの繰り返しで、やっと粗方の調教が終わった。
決して歯向かわない、従順な言いなり。
定められたルールは絶対に破らせない。
主人に歯をたてた場合は、しかるべき処置をとる。
いくらかの事項を並べての意思までもを縛りつけ、従わせた。
「はい」「はい」とどんな要望にも素直に応え、臨也の思い通りに動いてくれる、感情と表情を持ったロボット。ひたすらに愛でられ、異常の域に達した愛情を一心に注がれる少女。
そんなを、世の中は一体どう見捉えるのだろうか?
自由を剥奪された可哀想な子と口ずさむのか。あるいは、ここまで深く愛してくれる男と共にいれて幸せなのだと口を揃えるのか。おそらく後者に同意するのは、臨也と同じく狂おしいほどに愛しい人がいる者に限定されるだろう。例えるとするならば、ストーカーに分類される人間たちがそうだ。
彼らは狂気の裏に隠れた純粋な心をもっている。自分の行動が正しいと信じて、好意を寄せる相手に常識では考えられない奇行で迫ることもある。一途な想いは人としての正常な判断を鈍らせ、思いもしない大胆な手段で恋心を具現化される。気味の悪い贈り物然り、盗撮盗聴然り、四六時中のつきまとい然り、大量の電話メール然り……。
言わずもがな、臨也のその一員である。
「恋は盲目」「恋は思案の外」とはよく言ったものだ。
愛する対象を中心に世界が回転しだすと、夢中になって周りは全く見えなくなる。そしてしだいに軸がずれ、理性を失っていく。
結果、上記のような気が触れたとしかいいようのない方法で"愛の形"を示して、悦に浸るのだ。
脅える姿も怖がってる顔も、憎らしいくらいに可愛らしくて。
欠点さえも魅力の一つとして簡単に受け入れられてしまうほどに。
故に憎愛は紙一重。
描いた理想のとおりに相手が動かなければ、惚れ心は瞬間的に憎悪に変化する。理不尽な話だが―――似たり寄ったりなラインは、容易く超えることが可能なのだ。